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沖縄には「命ドゥ宝(ヌチドゥタカラ)」という言葉があります。命こそ宝という意味です。生命を創りだし生命を維持し、長寿を約束する最大の要素は食べ物です。祖父・祖母の家族を慈しむ食への拘りから、孫たちへの食べなさい(カメカメー)攻撃は、オジー・オバーの生きがいでもあり、孫たちに対する深い愛情の表れでもあります。

食の素材そのものに薬効があり、滋養強壮になる成分が含まれた食べ物はそれ自体が薬で、命から命へ連鎖がなされるのです。その中でもイラブーは別格です。高価で貴重な食べ物として、琉球王朝時代はもっぱら宮廷での皇族の饗応に用いられました。また中国の皇帝から派遣された冊封使や薩摩奉行の役人をもてなすために使われ、今では、皆の最高の「命薬」(五臓六腑に染み入る命の妙薬)として重宝されています。

沖縄語でイラブー、永良部島近海で産したことから永良部鰻と名付けられたウミヘビの一種です。鰻ではなく海蛇です。イラブーは主に、フィリピン周辺に多く棲息し、南日本からインドネシアまで分布している毒蛇です。洞窟や岩陰にあがってきたところを捕獲します。

その昔、久高島ではノロ(女神官)が捕獲権を持っていて、捕獲場所を他人に知られないように守ったといわれています。イラブーは燻製小屋で一週間から十日間いぶして製品にします。その燻製された物を食べます。燻製の仕方が一番大切で、燻製を上手にしたものを少し削ってみて、香りをかいで、鰹節のような芳香のあるものを選びます。スープにして甘味があり、香りもあり、身に染み入るような味になります。燻製の悪いものは臭くて香りが悪く、スープにしても苦味があります。

イラブーのタンパク質はアミノ酸組成がよく、旨味の主成分になっています。脂質は魚に似て、コレストロール降下作用や血栓予防効果が期待されています。老化防止、血圧降下、さらには動脈硬化を防止したり、喘息を抑えたりする効果があるといわれております。ミネラルやビタミンも豊富で、コエンザイムQ(酵素)と呼ばれる心臓によい成分も含まれ、強壮・疲労回復の効果もあります。

◆イラブーシンジ〈煎じ薬〉の作り方
燻製のイラブーを米糠、無ければ小麦粉で洗い、水気を拭き取ります。次に胡麻油を塗り、皮を少し炙って柔らかくしたら、六センチのぶつ切りにして、昆布で巻きます。これを鍋に立てて入れ、
水およそ二・七リットルを入れ、七〜八時間、水分が三分の一になるまでじっくり煎じ詰めます。このときの火加減こそ大切です。味付けは塩味のみ。それで出来上がった濃厚のスープがイラブーシンジです。小吸い物椀の半分ぐらいいただくのが適当です。飲み過ぎはのぼせますのでご用心を。

*小渡幸信さんの御高配でこのコラムを頂いて早一年が経ちました。故郷粟国の思い出を縦軸に、自分の技を横軸に綴って参りました。どうも有難う御座いました。


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