35







日本ほど豊かな自然に恵まれた国はないと思います。等分された四季にはそれぞれに美味しく、栄養分たっぷりの旬の食材の恵みがあります。さらに、海に囲まれ温暖でも、気候の違った細長い国土は、その土地土地の食材を産します。人と土は一体であり、地元の旬の食材が身体によいという「身土不二」の考え方も日本の食文化です。昔から日本人はそんな自然を神と敬い、自然に感謝しながら生活してきたのではないでしょうか。

昔から食材が限られていた沖縄では「医食同源」と「身土不二(しんどふじ)」が食生活の基本にあり、長寿の最大の要因はその食生活の結果もたらされたものでした。しかし、戦後、アメリカの統治下にあった沖縄の食生活は、チャンプルー文化といわれる高カロリー、高脂肪の食べ物への急激な変化に、日本一を誇っていた男性の平均寿命が劇的といっていいほど低下してしまいました。ここ五十年余の食生活の変化がはっきりと数字に表れたのです。今、国中でメタボ、メタボと騒いでいます。これも食の欧米化が少なからず影響しているのは確かです。日本人と欧米人とは脂肪を燃やす仕組みに係わる遺伝子に違いがあり、日本人は脂肪を燃やす量が少なく肥満になる割合が多いと聞いたことがあります。

今、日本ほど世界中の食べ物が集まっている国はありません。その反面、日本の食料自給率は、三十九%と危機的状況にあるのも現実です。さらに、輸入野菜や魚介類の農薬や添加物など食の安全も身近な問題になっています。国レベルでかなり思い切った施策を実行しない限り自給率を改善させることは難しい状況にまでなってしまいました。

塩の自給率は、十五%と世界最大の塩輸入国です。ただし、これは工業用を含めた数字で、食用塩だけをとれば八十五%が国産品で、質は別として、量だけ考えれば問題ありません。しかし、業務用、家庭用併せて二千種類に近い食用塩が様々な国から輸入されていますが、現在では公の表示の問題も解決されておらず消費者がどれを選べば安全でおいしいのか、正しく選ぶのは困難な状況にあることが問題だと思います。

私は塩作りに取り組み三十五年、海水に含まれるミネラル分と同じバランスでミネラル分を含んだ人体によい塩こそ本物の塩のあるべき姿だと考え、沖縄の美しい海水から伝統的な製法の良さを取り入れながら独自の製法で塩を作っています。そして日本の海から素晴らしい塩が作れることを、毎朝、海に感謝し仕事を始めます。

日本人は恵まれた自然に感謝し、貧しいながらも優れた食文化を築いてきました。しかし、自らの手で作物を作ることが少なくなった今日、そんな感謝する心も希薄になってしまったのでしょう。今こそ日本人とは、日本の伝統食とは何であるかを考え、日本人に合った食生活を取り戻す時期ではないでしょうか。


.
.

Copyright (C) 2002-2008 idea.co. All rights reserved.