「日本て、カクテル飲めるの?」いとこのヤスコはニューヨークから着くとすぐ訊いた。
「飲めるわよ、なぜ?」来る前からの問である。
「ルームサーヴィス・メニュにないし、カクテルグラスお土産に買いたいけど、売ってないのよ」
「ほんと?」曖昧な返事をしながら、なるほどうちでもカクテルでなく、飲むのはワインばかりなのに気づいた。ときおりジン&トニックやカンパリ・ソーダ、ブラディ・メリーを作る程度。でも、マティーニなしで、ヤスコは生きていられない。
ヤスコを案内して高島屋や銀座松屋を廻って、ははぁ! とわかった。食器売り場のグラスの棚に、カクテルグラスはない。ワインやシャンパンのグラスだけ。世界的ブランドのバカラやサン・ルイにはカクテルグラスが多少あるけど、一個が数万円じゃ、単位が一桁ちがう。〈料理しながらマティーニ〉のヤスコは、カクテルグラスをまずフリーザーで冷やすから、がちゃん! が心配でもある。
アメリカ人は、たしかにカクテル好きだ。私がギムレットやマティーニを覚えたのは、アメリカ人やイギリス人と飲んだパーティやバーでだもの。日本人は、自分で選ぶことに無精なのかもしれない。
「水割り!」ですませる人に対して、外国人は「オリーヴは二つ」「ジン&トニックはトールグラスがいいな」など注文が多い。同じお酒でも人によって好みもさまざま。ジンはビーフイータか、ボンベイ・サファイアか、ラムはバカルディかロンリコか。みんな自分の好みでいきたい。
最近のニューヨークではマルガリータがはやり。ヤスコの娘のアレッサンドラのアパートメントに招かれたときは「私、マルガリータつくるの得意なのよ!」と、氷をブレンダーに氷山ほど入れて、ウォッカとフローズン・ライムジュースをぶちこんでガーっと廻して、渡してくれた。キリリなんてものじゃない、北極海みたいな冷たさだ。頭の芯までツーンとした。
「ここに友達や仕事仲間よぶときは、もちろんカクテルパーティ。手間かけないで大勢呼ぶのよ」
「人数、どのぐらい?」
「八十人」気軽に言って「だからマルガリータばっかり。あとゼイバーズで買ったチーズ、ナッツ、スモークド・サーモンやサラミですませるの」
「カクテルパーティは、お料理ださなくてすむから楽なのよ」ヤスコも笑った。
「グラスだけ数、持ってないと」アレッサンドラは八十人分、安いので揃えたという。IKEAなら可能だ。私もパーティ用にイケアでたくさん買った。
アメリカ人のカクテルパーティは、大勢をいちどに招くやりかた。サーディンの缶を縦にしたみたいに、ぎっしり人がはいった部屋は、椅子を占拠した幸運者以外は、みんな立ったままおしゃベリする。
飲み物は浴びるほど。いろんなカクテル、氷ザクザク、手でつまむ食べ物があちこちにポンポンと。
「立ったまま」が常識の国は、パーティも気楽だ。日本で家庭にひとを招いて、ほとんどの人を立たせていたら、お客は次には来てくれない。両者のちがいは、社交の習慣以外に体力の差もあるかもしれない。
マティーニといえば、アメリカ人を連想する伝統的なカクテルだけれど、野心的なバーテンダーはいろんな新種を発明する。
「ブラッシング・モナーク」( 頬を染めるモナーク、実は〈はにかむダイアナ〉)は、ロンドンのサヴォイ・ホテルのバーテンダーの発明という。私はANAの機内誌、『翼の王国 WINGSPAN』(二〇〇二年二月)で見つけて、たちまち真似てつくってみた。これはあとで書くけれど、ダイアナのカクテルなんてステキじゃありませんか! |