No.267








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●山の降りは辛労い。老い耄れれば尚更。降りを急ぎながら何を考えるかといえば、老いも若きも、よく冷えたビールの喉越しのことばかり。その喉越し感をより鮮烈に味わうために「降りでは一切水分を摂らない」などとほざく奴もいる。危険だ。それは止めた方がいい。儂なんぞ下山後のビールの前に、嗽がてら涌き水をがぶ飲みするくらいだ。白状しよう。下山後はビールの他にもう一つ飲みたいものがある。冷たい牛乳である。何となく恥ずかしい気がして、人前で飲んだことがない。帰宅後こっそりと飲む。自宅で“こっそり”の必要もないが、何故かこっそりとやる。▲下山後“それなり”の蕎麦店があれば、極親しい少数の仲間なら、迷わず蕎麦店のノレンを潜る。酒を酌み交わし、蒸籠で〆るわけ。饂飩の盛んな土地なら饂飩の店に入ることもあるけれど、極々希なことだ。ここでもう一つ白状しなけれはならない。蕎麦好きは自明のことだし、ふだん人前で饂飩を注文することもないけれど、決して饂飩が嫌いなわけじゃない。下山後には無性にそれを食べたくなるのだ。牛乳にしても饂飩にしても、儂の場合、疲れると体がそれを欲するのかも知れない。加齢と共に饂飩を喰らう頻度を増したような気がする。■かつては暇に飽かして自分で捏ねたこともあった。それが証拠に、今も台所の片隅に麺棒が転がっている。地粉の取り寄せや塩加減など、あれも中々難しい。今はスーパーで買う饂飩粉で、耳饂飩なのか、ひんのべ・ひっつみの類いなのか…要するに水団状のものを捏ねるだけ。饂飩の釜上げ用と鍋および味噌煮込み用ときしめんの三種を、スーパーで選んで常備している。その中の一つが最近手に入らなくなり困っている。

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