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お休みが続くのは、のんびりできてうれしい。電話がこない、emailの返事もいらない、クルマの通りが減る。私のような文筆業でも、やっぱりノビノビできる。

休暇の取り方には国民性があって、日本はいっせいにとる、フランスなどは、ずらしてとるシステム。混雑を避けられるし、ビジネスや消費者にとっての不便も少ない。日本では、ゴールデンウィークには病気にもなれない。医者が病院にいなくなる!

いっせいに休む日本は、ゴールデンウィークやお盆中心の夏休みでわかるように、どこもかしこも混む! ホテルは高くなるし、JRはジパング倶楽部のサーヴィスを「繁忙期」と称してやめてしまう。でも、いつも他人の行動を見て自分も同じ行動をする日本人は「いっせい休み」でないと、安心できないらしい。

世界でいちばん長く有給で休暇をとる国はフランスの三十日(政府による決まり)、いちばん少ないのは日本の十日。(OECDの新しいデータ)。

私は平日でも人混みがきらいだから、混まない時間帯にしか行動しない。デパートや銀座の用は午前中。道路なら京都―東京間も、混む東名でなく中央道を使う。悪評高い山梨県警のパトカーがいても。

いちばんわからないのは、新聞にあった「千円乗り放題だからトク、渋滞でも最後まで乗ってた」と言ったひと。自分の時間をどう考えているのかなあ。「渋滞に呆れて高速を降りた」人のほうがわかる。

にんげんは混むのイヤ派と、混むの気にしない派にわかれるみたい。同じきょうだいでも、私と弟は前者、姉の一家は後者だ。同時刻の同じ道でも、私は「混んでた!」と言い、姉一家は「空いてた」と言うから、混雑の価値観は大きくちがう。

休日の感覚は洋の東西に共通らしい。本を読んでも、楽しいエッセイで知られたアンディ・ルーニイやヘレン・ハンフは「帰ったあとの面倒と、往復の道路状況を考えると、出かけたくない」派。そしてルーニイは「それなのに夏の休暇には出かけてしまう」と苦笑する。

暦というのはいたずら小鬼。今年はヘンな回り合わせで、間を巧みに使った人は、四月二十九日から五月八日まで、八日間の長休み。行き場所と使うお金の案配にさぞ頭を悩ましただろう。小鬼が陰でニヤニヤ笑っていそう。

「どうするのかい、お金はダイジョブ? 留守はどうするの? ペットの犬は? 猫は?」と。うちでは毎年、連休は東京で過ごす。混むなかを出かけるのはバカらしい。人が出払って空いた東京がありがたい。

好きなパンでいちにちハッピー


「何を用意しておく?」アミと顔を見合わせた。連休の食料のストックの相談だ。東京にいるのだから、気楽なクッキングと多少のぜいたくをして、休日をのんびり過ごそうというもくろみ。

「ね、カッチョカヴァッロを買わない?」私はアミに言った。前号書いた、アスパラガススープに入れる、シシリー島が元祖のズダ袋型のチーズ。

大きいとかなり高い。でもこれをスライスして食べるなら、夕食など、あとはバゲットがあれば満足してしまう美味だ。

だらっとして読書し、猫と遊ぶ休日、そして一方では溜まっていた片付けも山とあるし、原稿も書かなくちゃならない。連休だからこそ、邪魔がはいらないから、時間を自分好みに大事に使いたい。

シャンパンは特別のとき用でも、スパークリングワインはこんなキラク・オケイジョンにこそ。ヴァニラアイスクリームをフリーザーにばっちり。果物はいちごとマンゴー。マンゴーは香りと、てろりとした南国の味が好き。ピザはイタリーの冷凍で、きのこを数種類載せた小型が好き。これもストック。

このごろ得意になったローストビーフ用の肉のかたまり。ホールチキンもいちど焼けば数日いくから、大きめのを一羽。あとは火のいらないハムやパストラミのスライスを適量。

パンは、ル・ヴァンでコンプレ のホールを一本。買った翌日スライスして、小分けにしてフリーザーにストックする。コンプレは完全な、全くの、のフランス語、つまり全粒粉を二十五%まぜた国産小麦のパンで、自然発酵でおいしい。うちはずっとここのパン。いちど食べだすと、白いパンは食べられなくなる。食品の白モノは不健康というのは、いまは常識で、白い粉、白い砂糖はその代表。

そのくせお休みの気軽さから、むくむくと誘惑が頭をもたげた。アミが声をあげた。
「マンマーノも頼まなくちゃ。ブリオシュとパン・ド・ロニオン、十個ずつ?」これはうちの気に入り。
「ルヴァンはごはん、マンマーノはおやつ」と私。
マンマーノは、リーガロイヤル・ホテル東京のパティシエが独立したパン屋で、玉ねぎとベーコン入りのパン・ド・ロニオンは実においしく、よそにはない。ブリオシュも抜群だ。でもパンには土地柄がある。
この二つは店のお客にあわないらしく、いまは中止。それが残念で、特別に注文して焼いてもらった。

お金を使うなら、知ってる店に落したいのが、うちの方針。たとえばドライヴ途中の店は、行きずりで二度は行かない、人間関係もできないから、お金を使ってもそれが生きない。

連休後、友達やいとこなど、会う機会があった。どう過ごしたの? と訊くと――東京にいたのが大部分。小さい子供がいると、ディズニー・ワールドへ行く羽目になる! でもうれしいことに、みなとっくにそんな年齢は卒業していた。

葉山に家があり、東京ではワンルーム・アパート暮しのいとこは、横須賀線で葉山へ。時間帯をずらすと安くグリーン車に乗れるから、それで。築地市場とクッキングで楽しんだ男、展覧会に行った姉。

あとはみんな、ぶらぶらしていたという怠惰な話だった。ただひとり登山に行ったマメ男は、ETCのついてるクルマは中型で割引の規格外、2CVの小型にETCをつけるのが間に合わなくて高速の千円恩恵を逃した。私たちはよくよくハズレ者ね、と笑った。

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