No.269








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●幼い頃から甘味が大の苦手だった。そういう血統なのだから仕方がないじゃないか。遊びに行った先様などでクソ甘い汁粉なんぞを振る舞われたりすると、堪らず逃げ帰ったものだ。餡この類いの甘さは全く気違い染みてる…と思っていた。幾種かの甘味を口に出来るようになり、自らも偶には和菓子店を覗いたりするようになったのは、漸く四十路を迎えた辺りからのことだ。それでも上菓子の類いは(つくりの凝ったものほど)未だ気恥ずかしくて尻込みをしてしまう。困ったものである。
▲それを甘味の範疇に入れてもよいかどうか…母は例外的に〈くず餅〉だけは好んで食べていたようだ。儂が学生だった頃「ふふふふ…変なもの食べるでしょう…(出掛けの序でに)買って来てよ」などと、よく頼まれたものだ。くず餅は二百年とちょい昔の亀戸の豆腐屋さんが元祖らしいが、儂が学生の頃に住んでいた町では、何故か蒟蒻屋さんがそれをつくり販売していた。母の言うように、確かにそれは変なもの≠セと思った。葛粉なんぞ一匁も使ってないのに「くず」を名乗るのも変だし、醗酵した小麦粉の一見素っ気無い微妙な風味を理解できるほど、儂の舌も研かれてはいなかったから…。
■だが、気が付けば何時の間にか儂も「ふふふふ」なのだ。デパ地下などで求めて人様への手土産にすることもあるし、自家用に持ち帰ることもある。黒蜜と黄な粉を塗して食べるわけだが、例によって変なことを記すと、その黒蜜と黄な粉の残りを(余りが無ければ別誂えで)蕎麦(乾麺を三ツ折りにして茹でる)に絡めて、茶の子は疎か酒の子≠ニしても、大いに愉しんだりする(ふふふのふ)。

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