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わが国では、医師、厚生労働省、マスコミまでもが減塩、減塩の大合唱です。七月号では、日本の現代社会における、いわゆる「減塩神話」がどうして作り上げられたのかを説明しました。厚生労働省の最近の発表によると、一日の塩分摂取量の目安を一日十グラム以下としています。また、WHO(世界保健機関)は理想とする塩分摂取量の目安を一日五〜六グラムとしています。現在、日本人の平均は一日十一、二グラム(二〇〇三・国民栄養調査)です。昔と比べると日本人の塩分摂取量は年々確実に減少しています。

これだけ塩分摂取量が減っているのに、塩分の摂りすぎが原因といわれる高血圧が増えているのは、おかしな現象だと思います。日本人の高血圧の多くは本態性といわれ、塩分量との関係はあまりないというのが最近の説で、塩分摂取量が影響する高血圧の患者は少ないといわれています。

それなのになぜ、国は減塩運動を推進するのか理解に苦しみます。前回も書きましたように、日本人の塩分摂取量が世界一多いのは事実だと思います。それは、日本の気候、風土、食べ物が大きな要因となっています。乾燥している国に比べ、湿度が高く、よく汗をかきます。汗をかけば塩分が汗とともに排出されてしまい、塩分を補給しなければなりません。また、ナトリウム分が多い肉食の欧米に比べ、菜食が中心の日本人の食事は、カリウムとのバランスをとるために塩分を多めに摂る必要があります。各国状況が違う中で、WHOの推奨する基準値はあくまでも目安なのです。

塩分摂取をコントロールする能力
肉体労働やスポーツなどをしたときや塩辛いものを食べた時など、のどが渇いて水を飲みたくなります。それは、人間の体が塩分摂取のコントロール能力を持っている証です。

ここで塩というのは、ナトリウム分九十九・九%の食塩のことではありません。海水から作られたミネラル分を含んだ塩のことです。海水には三・五%の塩類が含まれていて、そのうち約八十%が塩化ナトリウムですが、それ以外に、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、セレンなど百種類以上の無機微量ミネラルが含まれています。その中の二十九種類が人体に大切であると解明されていて、人が生命維持活動を行うために欠かせない栄養素となっています。いい塩には、これらが海水の組成と同じようにバランスよく含まれていて、このような塩を摂取することが健康維持にとても大切なことなのです。

「減塩塩」のからくり
今、日本人は、「塩は悪者である」と洗脳されているようです。そして、「減塩味噌」、果ては「減塩塩」まで減塩商品が多く市場に出回っています。しかし、この減塩商品は、美味しくないばかりか、体によくないのを知る人は少ないと思います。

例えば、「減塩された塩」、いわゆる「低ナトリウム塩」は、塩にカリウムを添加して、塩化ナトリウムの分析数値を下げたものです。適正値のカリウムを含んだ塩は、カリウムによりナトリウムを体外に排出し、体内のミネラルバランスを正常に保つ作用をします。しかし、一定以上のカリウムを摂取することは、脱力感、不整脈などの高カリウム血症の原因となります。どうしても減塩が必要な方は、このような商品に頼らない減塩をお勧めします。

生命維持活動に不可欠なミネラル
先に説明した生命維持活動に欠かせない役割を持ったミネラルの働きを簡単に説明します。
人は新しい空気を吸って体内に酸素をとりこみ、食べ物を食べると栄養だけを吸収して、残ったものを便、尿、汗として体外に排出します。ミネラルはこれらの新陳代謝の働きを助けます。また、ミネラルは筋肉の伸縮を助けたり、血液や胃液の成分にもなります。人は生まれてから一時も休むことなく心臓を動かして息をしていますが、これもミネラルの働きです。さらに、体液量や水分の調整、体液の浸透性を一定にする、体液のpHを弱アルカリ性に保つ、血圧の調整と血液の循環、神経の興奮と沈静、有害物質の解毒など、ミネラルは人の生命維持活動に不可欠な働きをしています。

ミネラル不足は病の原因となる
それでは、ミネラルが不足すると人の体はどうなるのでしょうか。
例えばマグネシウムは、新陳代謝に係わる酵素を活性化させ、特に栄養の吸収、老廃物の排泄作用など係わっています。不足すると、筋肉の痙攣、神経過敏症、憂鬱症、腎臓結石、心筋梗塞などになるといわれます。また、亜鉛が不足すると、味覚障害になることはよく知られていますが、痴呆症、免疫力の低下、糖尿病の原因にもなります。

セレンは、毒性の強い砒素や水銀が体内に入ったときに、セレンが結合して体外に排出されやすい化合物に変化します。さらに活性酸素を抑えることでガンの発生を防ぐのではないかと注目されています。ここに挙げたのはほんの一例ですが、無機微量ミネラルが人の生命維持活動に不可欠であることがお分かりいただけたと思います。

よほど塩辛いものが好きでないと、なかなか過剰摂取にはなりません。人の体は、自然に塩分摂取をコントロールする能力を備えているのですから、朝昼晩とバランスよく普通の食事をし、適度の運動をしていれば、それほど気にすることはありません。

減塩を意識しながらも本能による自然体の塩分摂取こそが健康の基本だと思います。

参考資料/武者宗一郎著「自然塩健康法」



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