No.277







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●「春は酢味噌和えである…」なんぞというフレーズが人様に通じるかどうか分からぬが、儂はいま唐突にそう想った。雪の下から掘り出されたばかりの浅つ葱を今年も入手できた。さっそく酢味噌仕立てにして、これを菜に一献かたむけたところである。クルクルと丸まったちょっと行儀の悪いかたちの七センチ程の小さな若芽ではあるが、これこそ、春を告げる数々の山・野草の中で最初にその喜びを感じさせてくれる一味に違いない――という想いが冒頭のフレーズになった。▲浅つ葱だけではなかった。独活も、擬宝珠も、日光黄菅も、甘野老も、雪笹も、筍も……それらすべての若芽たちを、儂は酢味噌あるいは辛子酢味噌、時にはミソマヨなどで和えて「春」という季節を愉しんでいたのである。海の若布しかり、蛸・飯蛸・蛍烏賊もしかり。浅蜊・青柳・海松食・栄螺といった貝類もまたしかり。片口鰯だって、山女や岩魚などの川魚だって、儂はみんな酢味噌のお世話になっていたことに改めて気付いた。そのために(儂は他の事には使わぬ)京都の白味噌を冷蔵庫の中にキープしていたではないか――。■片口鰯…と書いたが、(何度も書くように)海無し県に暮らす儂だから、生食用のそれなど簡単には入手出来ない。普通のスーパーなどで見掛けるそれはとてもとても…。だが年に一度ぐらいは(生食用として売られているわけではないけれど)かなりキレイなものと出会うことがある。しかもバカ安。そんな機会を儂は絶対に見逃さない。●冬のさ中にも店頭に並ぶ栽培された山・野草(変な言葉?)のうち、浅つ葱の若芽と山独活や擬宝珠と称するものだけは、待ちきれずに新年早々こっそり利用している。ちょっと白状しておく。

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