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寒かったり、急に暑くなったりでメチャクチャ気候だった今年の連休。
四月二十九日はあたたかくなったけれど、前日はみぞれに変わりそうな氷雨で、まったくの冬だった。にもかかわらず乗り物や地方へ向かう高速道路は大渋滞。なぜみんな連休というと、レミングの群れみたいにワッと都会から逃げ出すのか?

「だって、よそへ行って、キッチンから解放されたいじゃない 」という女。
「狭いアパートじゃ息苦しい、混んでもなんでもでかけたい」という男。
「日常からはなれたいのよ、ちがったペースの、二十四時間×数日がほしいのよ」というひと。

私のうちでは、連休はぜったいに東京から出ず、家にいる。街にも出かけない。アップル銀座はまめに行く店だが、連休中はやめ。人混みが断固、きらいなのだ。もちろんクルマがわんさかいる高速道路、しかもヘタ運転との道行きはイヤ。
「イヤなものはイヤ」は、Carpe diem(いまを楽しむ)から出た私のライフスタイル。
これは個人主義のフランス人も同じで、自分の好みをつらぬく。だからかれらは日本式の全国いっせいの休暇をきらう。個々にずらして休暇をとれば、大事なヴァカンスで、いくらかでも混雑を避けられるという考えだ。

少しまえに日本でもそうしたら? と提案されたが、全国いっせいのほうがいい、休みがとりやすいから、と反対が多かった。「自分だけちがう」のがコワイ、「何でもヒトと一緒」という安心感、ふしぎだと思いませんか? それはさておき――。
あなたのおうちにも独特の「連休過ごし方メニュ」があるのでは? 私の家はこんな具合だ。
アミと私の連休少しまえの会話。
「萬樹のおうどん、いつとる?」
「マンマーノにはパン・ロニィヨン頼む?」
「ホールチキン解かしておく?」
これは、連休中の食事をにらんで、おいしくて、しかも手抜きをするための企みなのだ。

「萬樹」は前に書いたが、京都祇園白川の夫婦でやっていた手打ちうどんの店。いまは岡山の山の中で、清流を使って打ったうどんをインターネット販売している。美しい手刷りの挨拶と共に品物が届く。

「マンマーノ」はリーガロイヤル東京のパティシエが独立して代々木上原で始めた店、時間があれば私の好きなオニオン・ロールを焼いてくれる。
ホールチキンは、フリーザーのストックでミニマム二日はラクに食べようという魂胆。アミは、

「チキン、マーライヤ・パイチーにするわ」と宣言した。「あれやっとけばコールドでもいいし、おうどん用にもできるし、サラダにも使える。茹で汁がスープストックになるし。でもママはヨーロピアンだからシクシクかな?」とニヤリ。

家庭料理にも流行がある。ある時期くりかえし作って、突然飽きてしまう。この北京料理のトリも、ラクなのにしばらく忘れていた。深鍋の湯が煮立ったら丸ごとのチキンを入れてひと煮立ちさせ、火をとめて三十分おく。これを三回くりかえす。引き上げて塩とごま油を塗る。カットは好みのサイズに。

ボイルドチキンと野菜でヘルシー!


連休の前日、四月二十八日は、あるところのランチが重いフレンチだったから、夜は軽くと、ルヴァンの連休用に確保しておいた固めのバゲットに、イギリス風ハーブ入りの小さなソーセージ、セルヴァチコとベビーリーフのグリーンサラダ。

翌日は友達の家にランチにおよばれ。食事はナチュラルで軽く、白身のおさしみ、サラダ、デザートだけど、延々一時半から七時までのチャット。家に帰ってマーライヤ・パイチーのスライスを載せたサラダだけ。アミと、シャンパンでお休みに乾杯。

連休二日目。そろそろ食料品の買い出しだ。地球人倶楽部の取り寄せ野菜があっても、一リットルのクリームや、フレッシュな魚介類となると麻布ナショナルに行かなくちゃ。混まないうちにと早起き。お魚や貝類は、カートで回ってる間に次第にケースに並びはじめるのを、いそいそとピックアップ。
「あ、ホタテ、アサリ、エビが安い、これだわ。リーガロイヤルのシーフード・ピラフやりたかったの。カニは高いからやめ。無しでやる」
「ママが買うんだから、ママがやるのよ」
アミに釘をさされた。うちでは言出しニンゲンが料理担当者になる。これはわりと手のかかる料理で、その日、私は大働き。その代わり野菜はグリーンサラダで逃げた。

三日目は土曜日。「いよいよ萬樹よ」。アミがはりきって、おうどんをさっと茹でて冷水で流し、コールドに。伊志良光さんの赤絵の器にいれた。この器を使うときは、最恵国待遇なのだ。おつゆも一人前ずつ来てるから、器にあけるだけでラクチン。
ルンルンお休み気分は、クルマがいない、電話がこない、家のまえの人通りも少ない。市中山居だ。

長いホリデイは、自分のうちで朝食に凝るのが最高だ。私もアミも〈おうちスキー〉と同時に、〈朝食スキー〉でもある。

濃くいれたフレンチミックスは、倉敷の珈琲館の品、ルヴァンのコンプレ (全粒粉二十五%の意味)のトースト。卵料理を何にするか?

「今朝はせっかく小エビとホタテがあるんだから、〈フリュイ・ド・メール〉(海の果物)オムレツにするわ」。早起きの朝はブランチだ、買いたての海の幸を使おう。マッシュルームと小エビ、ホタテ(ほんとはカニ)を炒めてオムレツにのせ、クリームをかける。しゃれたネーミングに惹かれた。帝国ホテルのシェフ村上信夫「卵料理」にある。 
ホリデイでなくても、手抜きにヘルプフルなのが冷凍したスープ。私はこれまた〈スープ・スキー〉だから、まめにスープ、ことにポタージュをつくる。

スープの単位は約一リットルの液体だから、いちどには使いきれない。ジップロックのプラスティック・バッグに一回分ずつ入れて冷凍しておくといい、とこれはリーガロイヤルのシェフだった米津春日さんに教わったラクラク・クッキングである。

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