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「世界の人々に健康な食を」
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前号のあらすじ
幸信は自身の塩づくりの遠大な目標である「塩で世界の人々を健康に」を実現させるため、二〇〇四年イタリアでの世界スローフード大会に参加したのをはじめとしてアメリカの食品見本市などに「粟国の塩」を出品してきたが、昨年、「粟国の塩」が農林水産省の「世界が認める輸出有望食品 選」に選ばれたのを機に、幸信の想いを世界中に伝えるため、海外の見本市にさらに積極的に参加する決心をし、今年の二月、中東のドバイの国際見本市の日本パビリオンに出展し、生活習慣のまったく異なった人々の塩事情を学んだ。

ニューヨークの食品見本市に出展
二月二十八日からニューヨークで始まる「インターナショナルレストランアンドフードサービスショウ2010」に出展のためドバイ空港から直接、空路ニューヨークに向かった。ニューヨークは冬、雪模様であった。南国からの移動に寒さが身にしみた。この見本市は、バイヤー、レストラン関係者のためのもので、六か国、約五百八十社が参加し、一万点を越す食材が展示され商談が行われた。来場者は一万六千人であった。

農林水産省は、アメリカでの健康志向やエスニックフードへの関心の高まりを背景に、日本食品の市場拡大を目指して、この見本市に「日本政府ゾーン」を確保していて、「粟国の塩」もそこにブースを出した。塩のほか、醤油、味噌、海苔、ワサビ、清酒、焼酎、米、豆腐など百近くのブースが出展していた。幸信は、ここで現在のアメリカ人の日本食への深い関心と日本食を売り込もうとする日本企業の積極的な姿勢を感じた。

アメリカでの塩事情
アメリカでの日本食のイメージは「健康」、「ユニーク」、「高級・高品質」である。幸信は以前、ロサンジェルスの町で、多くの日本食レストランが繁盛しているのに驚いたが、ここニューヨークでも日本食レストラン、寿司店が目に付いた。それと同時に気になったのが、超肥満体の多いことであった。この肥満については以前から大きな社会問題になっていたが、原因は高カロリーの食事、それと車社会、太る体質がもたらしたものであろう。さらに現在、アメリカ人の一日の平均塩分摂取量は、WHO(世界保健機構)の指針である一日の塩摂取量六グラムの約二倍といわれる。これも問題になっていて、高血圧、心臓病の多いアメリカではいかに塩分摂取を減らすかがフード関係者の関心事であるという。特に、アメリカ人が日常としている加工食品に含まれている塩分量が問題になり、食品加工会社は、塩分を減らした商品の開発に力を入れているという。また、使用する塩も精製塩から海塩に替える商品も増えていて、パッケージには大きくSEASALT(海塩)と表示してヘルシーさをアッピールしている商品まであった。

ニューヨーク・ウォール街にて


幸信は、これらはアメリカでも塩の種類が様々あることについて理解する人が増えてきた表れなのだと確信した。

アメリカでは精製塩が主流
ここ数年、日本のスーパーやデパートの食品売り場の塩のコーナーには輸入塩を含めた選ぶのに困るほどの塩のブランドが置かれているが、アメリカのマーケットでは、シェア五〇%といわれる塩製造の最大手、モートンソルトに代表される精製塩が大半を占めていて消費者の選択肢はとても少ない。オーガニック食品で有名な高級マーケット「ホールフーズ」や「トレーダージョーズ」でさえも塩の種類は少なく、ここでも精製塩が大半であった。ヨーロッパでは自然、健康、プレミアムという三点から、すでに海塩が広く使われているが、アメリカでも、日本食レストランや高級志向のレストランでは自然海塩が使われ始めていて、今後、一般家庭への広がりが期待される大きな市場であることは間違いないと幸信は実感した。

ステーキを塩だけで試食
見本市の三日間を通じて、幸信はトマトとステーキに味付けとして「粟国の塩」だけを振って試食のデモンストレーションを行った。日常ドレッシングやソースで食べているトマトやステーキを、塩味だけで食べてもらいその感想を聞いてみると、多くの人が素材そのものの旨味を感じることが出来ると初めての体験に驚いていた。

しかし、塩と健康の関係については知識も少なく、すぐには理解してもらえなかった。幸信は、今後とも根気よく情報を発信し続けなければならないことを痛感させられた。三日間の会期中、「粟国の塩」のブースには二百人を越える人が訪れてくれた。次は、パリでの見本市に向かう。

(取材・構成/本誌編集部)


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