No.282







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●弁当というものが大の苦手である。かつての農・漁・山仕事の…あるいはお花見のような行楽の携行野外食のことではなくて、今時の駅弁から店で食べる松花堂まで…そういうカタチがダメなのだ。スーパーマーケットに沢山並んだ弁当類はとてもとても…(コンビニという店にも同類があるらしいが、儂はコンビニに用がないので分からん)。但し例外が一つだけある。稲荷寿司と苔(のり)巻だ。朝一の電車で出掛け、乗り替え・乗り継ぎでボックスシートの車両となり、山間をうねるようになる頃、その日の朝食を摂る。この弁当がもう何十年変わらず稲荷と苔巻なのだ。種々試みた結果、消去法で最後に残った。スーパーで稲荷と(干瓢だけの)苔巻を買って愛用の古い黒色の密閉容器に詰め、さらに自家製の玉子焼きと胡瓜の糠漬けをもう一つ詰める。これをインスタント味噌汁を啜りながら、半分車窓に目をやりながら、他愛なくしゃべりながら、食すわけである。東京住まいの頃は、デパ地下に手作りの旨いムスビや高菜で巻いた巻き寿司風があって、これも朝弁用に調法したのだが、残念ながら今は入手できない。稲荷寿司は子供の頃に割とよく食べる機会があった。家でも作ったし、近所のオバサンから貰ったりもした。今の市販品よりも大きく、煮染めた干瓢の帯をキリリと結んでいるのがよかった。「稲荷寿司」より「おいなりさん」が似合う。ベタベタと砂糖甘くない点もよかった。ムスビは自分でやってみたのだが、なかなかうまく行かない。稲荷と苔巻の組み合わせは「助六」ともいうらしい。芝居の『助六所縁江戸桜』に由来(吉原の遊女・揚巻と助六・実は曽我五郎時致が絡むおはなし)するとか…儂は芝居のことはさっぱりわからん。

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