No.285







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●今年の春の山賊亭に「酢味噌和え」の駄文を記したのだが、その時、秋の号には是非に「白和え」をやろうと決めた。だが気付けば今にずれ込んでいる。酢味噌にせよ白和えにしろ季節を限定する根拠なぞひとつもないのだが、儂の中では何とはなしに使い分ける傾向にある。柿が大の苦手の儂が白和えにしたら難なく食えたので、その柿から始まって、以前は蒟蒻(こんにゃく)・人参・鹿尾菜(ひじき)の白和えの定番をよく作って食べた。その後暫く途絶えていたのだが、数年前にふと立ち寄った居酒屋のお通しに鹿尾菜だけの白和えを出された。それはあまりにも素っ気ない作りだったが、それでも気持ちよく酒を呑めた。そんな切っ掛けがあって、又候(またぞろ)自作の白和え食いが復活したのだ。夏を越した酒が出回る季節になると、何故かこの和えものでイッパイが多くなる。菠薐草(ほうれんそう)と竹輪を和えたり、焙って刻んだ椎茸を和えたり…また春なら山葵の葉と茎もいいし、浅蜊やツブ貝なども使える。儂の得意なヨーグルト蕎麦に倣って、短かく折って茹でた蕎麦を豆腐の白和えにしてみたら、これがまたナカナカ…。悪乗りしてショートパスタの類いも試みたが、こちらはまるでダメだった。よく水切りした豆腐を(今時は電気仕掛けでグア〜ッとやってしまうのだろうが)儂の場合いは昔風に摺り鉢でゴリゴリとやる。砂糖と薄口醤油に気分で胡麻や胡桃その他のナッツのペーストを加えることが多い。摺り鉢のかたちが好きだ。石臼的機能の内側の筋目をとても美しいと思う。摺り粉木でゴリゴリとやる作業が楽しい。ゴリゴリゴリとやりながら、指先でヒョイと掬って味見のひと嘗め…思わず「ニタリ」なんてね。白和えはこの時点でもうすでに美味しい。

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