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「いい塩をつくりたい」
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幸信の塩づくり言行録
幸信は、塩づくりの職人である。しかし職人によくみられるような無口で気難しい感じはない。沖縄の人らしい明るさとやさしさがあり、しかも話好きである。塩の話になると熱が入り留まるところを知らない。しかもほとんど塩に関係ある話である。講演会などもよく頼まれるが、ぶっつけ本番で話し出し、いつも頭の中は塩のことで一杯だからそれを次から次に話す。塩への思い入れが強いだけ、聞き手にも分りやすく面白い。
今回は、幸信の塩づくり言行録をご紹介したい。

塩との出会い
「私は若い頃から体が弱かった。そのため健康法を求め自然療法やヨガなども実践した。そして、その中で健康には、よい塩が欠かせないという考えに行き着いたのです」
「私が自然塩づくりを始めたのは、人間の体にとって一番大切なのは塩だと気づいたからです」

塩づくりは私の使命
「空気、水、塩は生き物が生きていくうえで無くてはならないものです。いい塩が欲しい、自分がやらなきゃ誰がやる、と使命感みたいなものがありました」
――好調だったタイル工事会社を閉め、家族に反対されても塩づくりの道を選んだことについて。

自然がいのち
「塩づくりを始める工場用地をさがして、各地の海を探し回りましたが、上空から粟国の海を見た瞬間に塩づくりをする場所はここ以外に無いと閃いたのです。私の塩づくりには、きれいな青い海と年中吹く風、そして輝く太陽が必要なんです」
「自然に立ち向かうのではなく、自然と一体になり、自然に従うことが大切です」
「自然界には未知の力が働いています。島で暮らしていると自然のやさしさ、厳しさ、そして大切さがよく分ります。海のもの、陸のものをバランスよく摂る大切さも知りました」
「私の塩づくりで最も気を使っていることは、環境への配慮です」
――粟国島は開発されていない自然が多く残る小さな島である。幸信は毎朝、東の空に向かって祈ってから仕事を始めるのが日課である。

塩の釜炊きを見守る幸信

よい塩をつくるコツ
「自然にあるものに、いかに人の手を加え、何をいかに残すか。それがいい塩をつくるコツです」
「塩づくりで、ただ自然であればいいということ ならば、そんな簡単なことはありません。自然のものに人が培った技と蓄積された知識を織り交ぜて職人の手を加えることが大切なものもあります」
――世界では、塩湖や岩塩など地表に存在しているものを食塩として使っている。海水から塩をつくっているのは、日本を含めた少数の国である。

塩づくりで一番大切なこと
「私が塩づくりで一番大切にして、また苦心していることは、いかにして海水の成分をバランスよく、塩に馴染ませるかということです」
「私のつくった塩の特徴は、海水の成分がバランス良く塩に馴染んでいることです」
「私の塩には塩化ナトリウム以外の海水の成分が一五〜二〇%バランスよく含まれています。自然がどれだけ出来上がった塩に残っているか。それが重要なのです」
――現在、ナトリウム分が九九%以上という塩が市場では大半を占めている。

塩の味
「一回なめても塩の良し悪しは分らない。何回なめてもまろやかなのが僕の塩です」
「海水からつくるバランスのよい塩は、しょっぱいだけでなく、甘味、苦味、辛味などを感じます。その微妙な味わいが食材本来の味を引き立て、料理に深い味付けをします」

塩は自然治癒の原点
「塩の豊かな成分が人の本来持っている自然治癒力の維持に役立つと思っています」
「塩は病気を治すというより、病気にならないための免疫力強化のために、また予防医学という観点からお役に立てればと思っています」
「病気にならない体づくりには、自然治癒力を高めるための日常の食事が大切です。また、自然のものをいかに上手に摂るかが大切です」
――これは幸信が幼いときから病弱だったため、自然療法やヨガの道場に通い、玄米食や自然食を体験したことがもとにある。
これらの幸信言行録とでも言うようなものから、幸信のつくる「粟国の塩」がどのようなものか分るような気がしませんか。(次回につづく)

(取材・構成/本誌編集部)


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