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梅の花が一斉に開き鶯の初鳴きが始まる頃になると、子供連れの観光客で能古島は賑いをみせる。福岡ヤフードームの西側の姪の浜から市営のフェリーに乗って十分弱、博多の喧噪とかけ離れた別天地が我が家の周辺には多々存在する。船を降りて五百メートルほど歩けば、鬱蒼たる原生林が未だ残っており、その森の中が格好な散策路となっている。照葉樹に覆われた山道をぶらぶら歩くと、運がよければたらの芽を見つけることも出来るだろう。ともあれ、数多くの野鳥と出合いながらの春のハイキングには最適の島である。

そんな訳で、土日や休日天気さえよければフェリーは満杯状態となる。取り分け、この季節の大潮の日には、アサリ掘りの人々も少なくない。砂浜の一部はアサリ漁を専業としている漁師さんの為、潮干狩りは禁止とされているが数時間でバケツに山盛りのアサリを掘る名人も見受けられる。

砂浜でガサゴソやっていると、漁組の係員がやってきて五百円徴集されるが、バケツに半分でもアサリが採れれば十分であろう。ただし、小さなお子さんが貝掘りの熊手を握っていても、お金を納めなくてはならないようだが、これはいささか行き過ぎのような気がする。

僕も数回貝掘りに挑戦したが、前屈みの連続で腰痛持ちの体には辛いものがある。どうしても沖に向かって掘って行くから、前のめりの体勢を維持して進まねばならない。三十数年前に能古で挑戦した時にはアサリやハマグリが結構採れ、熊手をガリガリやっていれば、小一時間で簡単にバケツに一杯になったものだ。が、最近はそうは問屋がおろさない。ハマグリはもう殆ど見つからないし、アサリも激減しているようである。
その原因は、対岸の浜辺を大々的に埋め立ててしまい、潮流が大きく変わったことに加え、アサリの天敵であるオニヒトデやツメタガイが増え、アサリは極端に減っているらしい。オニヒトデは海水温の上昇が原因の一つとされ、ツメタガイの異常発生は中国産の稚貝放流が仇となったとか。

Kubota Tamami


この現象は、博多湾だけの問題だけではないようだ。各地の潮干狩りの名所でも、アサリやハマグリがツメタガイに駆逐され、潮干狩りが出来ず大いに困っているそうな。

しかし、このツメタガイ、食べるとけっこういける。少々身が固いから、塩茹でにした後殻から取り出し、内臓の部分を切り捨ててもう一度弱火でショウガやミリン等を加え、醤油味で薄味の佃煮風に煮込むと案外ビールや酒の肴になる。

さて肝心のアサリだが、今でも腰痛を堪えながら頑張っていれば、干潮の三十分前から潮が満ち始める間までには、何とか五百円の元手が取り返せるくらいの量は採れるだろう。もっとも、能古島産のアサリは、福岡では最高級品とされているので値も三割程高い。これは潮の関係なのだろうか、確かに他所のものと比べても味はよい。

二晩くらい海水に浸し、しっかりと砂を吐出させる。こうした状態にして、オリーブ油を熱した中に潰しニンニクを粗く刻み赤唐辛子共に投げ込み、薄い煙が出て来たところにアサリを加え油を回す。今度は、白ワインをコップに半分強加え、蒸し煮状態にする為ふたをする。貝が開いたところにバターとコショウを加え、刻みパセリをトッピングすれば地中海風のアサリ炒めの完成。

当然のことながら、冷えた白ワインがよく合う。同じ方法で油をゴマに、ワインを酒、パセリを刻み青ネギに変えれば、和風の酒蒸しとなる。バターに関しては、お好みで…。アサリと一緒に、オニアサリ(こちらでは潮吹き)という貝が採れるのだが、これは台湾風に八角と老酒で蒸し煮にすると旨い。いずれにしても、梅雨明け頃までは量は少ないが潮干狩りが満喫出来る。



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