「ひと月遅れでバースデイ・パーティするの、どうかしら?」数人にメールしたら、
「すてき! 楽しく笑っておしゃべりしたいわ」
「いいね、何かユカイなことしなくちゃ!」
友達の女、男から、打てば響くような返事。みんな、憂鬱になっていたのだ。大地震に追い打ちをかけ、しかも好転の兆しもない東電・福島の原発。
水道水は汚染されてるに決まってるから、煮炊きの水だってミネラルウォーターを使う気の抜けない日々だ。クルマをビルの地下のパーキングにいれるときは、地震でもダイジョブかな? と気になり、機械式は敬遠。電車に乗るひとは、いつも帰り道の代替法をアタマに描いている。
「なんだか、戦争中みたいなんだよね」
「誘われたら、いまは時間が空いてればノルことにしてる」と言った男性は「先の見通しがないから、『今日』が大事でしょ」と言い添えた。
たしかに私たちは、平和という生あたたかいプールに、沼のカエルの群れみたいにドプッと浸かっていたから、ショック状態で目が覚めた感じ。
パーティは、やや落ちついてきた五月なかばのある午後。話題はやっぱりフクシマだ。
「ショックだね、トーデンに高い電気料とられて、無能嘘つき役員が年七千万円とってたなんて」
「全国四十七もリゾートに施設もってるんなら、被災者入れたらいいのに」パーティは怒りとうっぷん晴らしでスタート。みんな笑ってほっとしたいのだ。
考えたら、バースデイパーティは近年のことだけど、大勢のニューイヤー・パーティをうちで始めたのは、もう四十年のヒストリーがあるのに気づいた。パーティのメニュを考えながらアミが言った。
「男のお客さまって、いまは高齢者じゃない? メニュ、軽くしなくちゃ。ニューイヤーでも、重いお料理は残るでしょ」
「そうね! 女客は若いけど」
「気軽なチャットでゆっくりできるように、あちこちにトレイを置いたらどお?」
こうして、〈おしゃべりと笑いが中心、軽くてデリケートな品〉と、基本ができた。食堂に駆け下りた私は、料理本のバイブル、"Joy of Cooking"を開いた。メニュの章を探した。あった、アフタヌーン・ティだ。メニュのサジェスチョンが並んでいる。しゃれたケーキと飲み物に、小さなサンドゥィッチやカナッペ、プラス、サラダやオウドウヴル風の品。
あ! と感心したのが、ブリア=サヴァランの引用――「日頃いい食事をして満ち足りているお客には、しゃれたおいしいモノを美しくだすことが大事」とある。そう! アフタヌーン・ティは、食事的にアレンジしてはだめ。お客はおとなで、腹ぺこクマではない。すべてが小ぶりでしゃれていること。味と同時に美的さが肝心なのだ。
「アミ、わかった! バースデイケーキ中心に、今年はペリニィヨンの品を増やさない?」
「その分、うちでつくるの減らせるわね! 軽いタルト焼くとか、フィンガー・フードでOKね」
家でするパーティの決め手は、メニュのバランス。お客がよろこぶのは一に味、二に取りやすさ、三に食べやすさ、四に見た目のきれいさ。ブフェ式は、立ったり、座ったり、しゃべったりしながらテーブルの上の食べ物をとる。取りやすさは、二番目に大事だ。
ペリニィヨンのサンドゥィッチは、ノルウェイのスモークドサーモンのと、国産牛のステーキの二種でたっぷりの芥子バターを塗ったオン・トースト。デリケートなつくりで、トレイから手荒にとると崩れるから、端をパーティ用のようじでとめる。いろんな野菜のピクルス添え。
ほかに緑やオレンジの春野菜のテリーヌ、小さなトマトに海の幸を詰めたファルシイ、白アスパラガスのムース。 どれも小ぶりでティにぴたりだ。
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