No.293







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●山深い温泉の小さな土産物店に、子供なら枕にでも使えそうな鬱金(ターメリック)粉の大袋が、半ば埃にまみれて並んでいた。昔の話だけれど嘘みたいに安価だった。さらに古いのだが、放浪的旅行の遠い国で黄染めの飯を御馳(ごち)になったりした。あれは蕃紅花(サフラン)ではなく、明らかに鬱金だった。「何故黄飯なの?」と問えば「みんなこうするのよねェ…」とそのママさんたちは答えた。そんな事を思い出して、あの時、温泉土産の大袋を買って帰ったのだ。また別の場所では生姜の根とそっくりの(同族だから当たり前だ)鬱金の根を買ったりもした。恥ずかしながら、何れも充分には使いこなせなかった。ずっと後(三年ほど前かな?)にカレーライスの飯を黄染めにして、以後それが病み付きとなった。胃袋も黄に染まっているかも知れない。▲先月、自然食品の店に行き、この国の米食の原点と云われている(前号参照)赤米を買った。二五〇グラム入りの小袋しかなくて、これじゃあ枕の代用にはならない。小袋に貼られた説明書きには「白米三合に対して大匙一〜二杯を混ぜ…」とあったのだが、儂は毅然として赤米一〇〇%にしてやった。日の丸のような赤い炊き上がり(それもちょっと気味が悪いかも)を予想していたのだが、違った。米粒程の形の小豆だけを炊いたような色合いだった。釜の蓋を開けた瞬間、思わずギャッと叫んでしまった。その次は説明書きの混ぜ率の倍量を白米に混ぜて炊いた(こんな小文を記すにもイロイロ手間が掛かる)。粒々の混じったほんのり赤いその飯は、雰囲気が赤飯に似ていた。もっと赤米の比率を増す方がいい。結果として、儂は〈赤米一〇〇%〉を潔しとする。赤飯同様に塩をちょいと一振りして食らう。年に何度かはやりたいと思う。

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