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太陽のありがたさは、冬につくづく感じる。だから日本の家は南向きに建てられ、有料老人ホームでも南向きが歓迎され、北向きは最後まで売れ残る。ある女性は、そうして売れ残った一つを買って、日野原重明さんのホームに入居できてハッピーだ。

「北向きのほうが、ほんとはいいのよ。家具やカーテンが傷まないし、いつも同じ量の光がはいるでしょ」。たしかに落ちついた雰囲気だった。

夏場となると太陽歓迎も逆になる! しかも今年みたいに、窓を開けられず、節電しようという夏に、陽光は室温をあげるばかり。ゴーヤで窓を覆うのは暮しの知恵だが、土のない私の家にはダメ。カーテンを引いて朝日を防ぐ、あるいは夕日を防ぐ――これは予想を上回って、効果があった。

暑いと食欲が減る? でもそれに流されてると、消耗する。食べて涼しく、力がつき、火を使わない。この三つを狙わなくちゃ。

どこの家でもいろんな工夫をしている。梅雨なのに雨も降らず、真夏みたいに暑い日、デパートの特別食堂でイトコたちとお昼を食べた。百貨店は会食には重宝だ。チョイスが広いし、地下鉄乗り入れがあってラク。ここでも話題は夏の省エネになった。

「暑いでしょ、うちじゃ、炊いたご飯にお酢を少し振ってまぜとくの。そこに茗荷とシソをきざんでいれ、鰻の白焼きを短冊に切って載せるのよ」リョウ子さんが言った。

「茗荷とシソって相性がいいわね!」に彼女はにっこり。「白焼きって軽いし、人数分ないときなんか、ほんとに重宝するの」

「白焼き、地下で買って帰るわ」誰かが言った。

アミが「私、地下の鮮魚に、中華味のくらげが出ると飛びついちゃうの。そのまま食べられるでしょ。キュウリもみや、ワカメや、大豆もやしの茹でて冷やしたの、ミックスしたり。塩とオリーヴオイルかけるとおいしい」

「そういうのって普通はお醤油じゃないの? お宅は変わってるね」お料理をする男のシンちゃん。

「いい塩とエクストラヴァージン・オリーヴオイルは最高の味になるのよ。うちは冷や奴もそれよ」

ヒトの知恵をもらえると、食事にヴァラエティが出てうれしい。茗荷とシソまぜは、さっぱりして、うちのレパートリーにはいった。

考えたらお豆腐は、昔は必ず火を通して使った。冷や奴も、加熱後、冷蔵庫に入れて冷やしたものだ。いまは安全になって、そのまま使える。オリーヴオイルと塩で冷や奴を――という食べ方の変化も、トーフのインターナショナル化のせいだろう。海外の料理ブログが、たいへん参考になる。

同時に日本の味覚に欠かせない七味や一味は、インターナショナルな時代にも活躍する。うちで「おしゃべり七味屋」と呼んでいる大阪の七味屋「やまつ辻田」の七味や、祇園の原了郭の黒七味は愛用品で、くらげや冷や奴に少量ふるといっそうの美味。でも振りすぎないよう! ものすごく効くからだ。

一日の食事のどこに軽重を置くかも、時代や年齢とともに変わるし、暑い夏はいっそうだ。

「冷たいスープ、作っておくわ」暑くなった朝、私は宣言した。

「ウレピー! トリとトマトのジェリード・スープ?」 アミが飛び跳ね、猫はびっくり。
「よりどり見どりよ」私はにんまり。「ジャン=ジョルジュのガスパチョもできる。材料そろってるから」

メロン、トマト、バジル、味の三重奏


結局、二日のうちに二種類つくることになった。暑いときは、ヴォリュームのある冷たいスープは、食事代わりになるからだ。冷蔵庫にスープがうなってるときは、手抜きができて、うれしい。火無しで夕食を持てるから。

ガスパチョは、普通はトマトとキュウリとパプリカ、玉葱をチョップしてつくるけれど、最近うちで凝っているのは、ニューヨークのジャン=ジョルジュの、カンタロープ・メロンとトマトのだ。カンタロープは、マスクメロンのグリーンに対して、オレンジ色。そのオレンジ色の甘みは、夏の味。

半分に切って売ってるのを、粗くチョップし、トマトも皮をむいて同様に。カンタロープを二分、強火でいため、水分が出てきたらボウルにどけ、同じお鍋でトマトを同様にいため、カンタロープと一緒にする。バジル少々と氷水一カップ半を入れてバミックスで砕き冷蔵庫へ。トマトの皮むきが面倒なときは、イタリーのおいしいトマトを刻んで水煮した、ソルレオーネというブランドの紙箱入りを使う。

飲むときはクラッシュド・アイスを入れてさぁっーと! 電話が鳴っても出ないこと! せっかくのガスパチョが水っぽくなるからね。

参考にトリとトマトのジェリード・スープを書くと、チキンのひき肉をいため、次に玉葱のチョップを加え、最後にトマトのチョップを入れ、チキンブイヨンを入れてさっと煮て、ゼラチンを振り入れ、冷蔵庫へ。トマトは中を二個、チキンも多いほうが食事風になる。前日つくってあっても、食べるとき氷を落してさっと食べるのが私は好き。これは暮しの手帖の『ロイヤルホテルの家庭料理』にある。

中身たっぷりの冷たいスープ、これに添えるのはバゲットの薄切りをさっと炙り、冷たいサラダと。気候が似ている夏の暑いイタリーのが好き。

クロタン(ヤギのチーズ)を薄く切ってバゲットに載せ、タイムとオリーヴオイルを振って炙ったのは、気に入りの組み合わせ。

夕方を軽くすると、早寝早起きもうまくいく。体重を気にする人には、効果があるはず。

といいながら、やっぱり暑いとアイスクリームに手が出る。〈 アイスクリーム〉も好きだが、夏はフリーザーに余裕をつくって一パイント(五百グラム弱)サイズを買うのがベストだ。おいしいのはチャオベッラというイタリー名前のアメリカブランド。

ヴァニラをカクテルグラスにワンスクープ。アミはその上にチョコレートシロップ、私はモーツァルトのチョコレートリキュールをかけた。さらにグラノーラのピスタシオ&メープル入りをぱらぱらふると、ただの冷たさにプラスαが加わってハッピー!

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