No.296







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●枝豆はもう終りにしようか…と思う頃に、タイミングよく小芋(石川早生“いしかわわせ”)が現れる。儂はこのキヌカツギというやつが大好物なのだ。いや、何も担いじゃいませんよ。漢字で書けば〈衣被〉。毛むくじゃらを被いている(頭から被っている)だけだ。キヌカヅキがちょっと言い難い(発音し難い)から、キヌカツギと(文字はそのままで)発音だけ訛ったのだろう。でも何時の時代から(?)。それは兎も角あの毛むくじゃら…野菜の被りものとしては可成り変じゃありませんか――。▲今年の十五夜の晩、久々に奇麗なお月さんを見上げながら初物の衣被ぎを摘まみ、酒(すいちょう)を嘗めた。室温で半年間寝かせておいた〈磨度60〉の酒が、ナカナカだった。嘗て、山賊たちと、「月見」を口実に(実際は月を賞でることもなく)何度も酒を貪ることもあったけれど、恥ずかしながら、芋や団子をお供えしてきちりと満月のお祝いをしたことがない。悪酔いして狼の咆哮を真似るのが精々だった。もっと子供の頃に「正しいお月見」を体験しておけばよかった…と今頃になって後悔してる。■小芋の後も、あまり大きくない子芋の土垂(どたれ)食いがずっと続く。衣被ぎに続いて烏賊と共に白煮にして食い、汁の実に使う。里芋はあのムチンムチンした粘性がイノチだと思っているから、(儂の場合)一般に行われるような粘性を除くための下処理は行わない。秋が深まるに連れ、濃いめの味付けのいわゆる煮転がしや、他の野菜類や肉などと煮合わせたりする。この段になってやっと少しだけ(味を馴染ませるために)ムチンを排除する。ほっくり感のある粉系の親芋(八ツ頭や筍芋など)は正月前後に少しだけ食べる。それも自ら進んで…というわけではない。

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