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四季のはっきりしている日本では、春夏秋冬の上に立つという字を被せてそれぞれの季節の始まりの日としている。つい先日の立冬を境に、暦の上では冬に突入したわけだ。しかし、畑の中には未だ夏から秋にかけての野菜達が頑張っている。ナス、オクラに数種類の唐辛子がいまだに可憐な白い花を咲かせながら実を育んでいる。ピーマン、いや正しくはパプリカと言うべきであろうが、僕はてっきり夏野菜だと考えていたのだけれども、秋の半ば頃から実が極端に肥大化してきた。一流のスーパーなどでは、一個が五百円くらいで売られている見事な出来栄えである。

こうした野菜類が畑に残っているということは、現在の住まいである福岡が暖かいのかそれとも何らかの異変が地球上に起き始めているのであろうか。ま、僕の思い過ごしと考えたいが、困るのは畑のスペースのやり繰りだ。専業農家の方だったら、歩留りを考慮して思い切ってバッサリと刈り取られてしまうのだろうが、素人の僕等夫婦には到底出来ない話。おまけに、生き残っている野菜達の味が、頗るおいしいから始末に負えないでいる。ナスは絶品の秋ナスだし、オクラも風味が素晴らしくよい。こんな体たらくだから、来るべき正月用の蔬菜を植える畑に困っている。

Kubota Tamami
我が菜園に植えている野菜の殆どは、サツマ芋を除いては連作が利かない。徹底的に土壌を改良してやれば話は変わるのであろうが、新たな土と計り知れない労働力を必要とする。小型のパワーシャベルでも持っていれば、簡単に穴を穿って土を入れ替えられるだろうし、堆積している粘土層にも堆肥を施せる。女房殿には内緒だが、最小のシャベルカーの中古を買いたくて致し方ない。が、これはかなりの人気商品らしく、中古でもかなり高価だし見つけるのは困難。例え、うまいこと手にいれたとしても、メンテナンスや保管場所に困ることは予想出来るので、潔く諦めることにしよう。こまめに畑を起し、必要な分だけ肥料を施し、植え時のタイミングをゆとりをもって図り、区画の手順を調整をしながら野菜を育てればよいのであろう。と、五十坪あるかないかの菜園で悩んでいるのだから、専門家が聞いたら一笑に付すだろう。

そんな情けない我が菜園にて異変が起きた。春に塔立ちて自然に枯れて行ったサンチュを引き抜いて、畑の隅に放置しておいたら種が飛び散り自然生えしたのである。

当初は憎っくき雑草だろうと思って刈らなくてはと思っていたが、雨が続いたので手を拱いていたら成長し、サンチュであることが判明。種を購入してプランターに蒔いたものと、大きさはほぼ同じくらいである。畝を起して肥料を施すなど、手間ひまかけたものと比べて何の遜色もないというのはどういうことなのだろうか。おまけに、天敵の夜盗虫の被害も皆無のようである。そこで、ちょいと摘んで食べてみたところ、味はハッキリとして旨いのだが固い。やっぱり、手塩にかけて育てたものは、それだけの価値があることが判明し納得した。

さてサンチュだが、サニーレタスによく似ているが韓国の野菜だ。韓国語で包むをサムと言い、チュの意が菜である。つまり、包み菜をサムチュと呼ぶのである。キムチの王様と呼ばれている、ポッサムキムチは宝を包んだキムチだそうで、キムチの中には松の実やらナツメのような高級な食材をふんだんに用いてある。韓国で焼肉を注文すると、サンチュが必ず付いて来る。

もう一つ添えられるのが、サムジャン。直訳すると包み味噌。サンチュを掌にサムジャンを塗り、焼肉とキムチを少々、加えてご飯を適宜乗せて包み口に入れる。勿論、サラダに用いるのは当然で、僕はこのサラダが大好物で毎朝食べている。


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