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私の塩工場は、沖縄本島から六十キロほど離れた粟国島にあります。その青く澄んだ粟国島の海から海水を汲み上げて、太陽や風など自然の力を借りて手作りで塩を作っています。朝起きて海から昇る太陽を拝み自然に感謝することから、その日の塩づくりの仕事が始まります。
夕方、海に太陽が沈むと工場の周りは漆黒の闇となり、塩を炊く釜の炉で薪が赤々と燃える炎だけが闇の中に神秘的に浮んで見えます。風雨の無い夜は、物音も聞こえません。頭上には満天の星と月が輝いています。私の塩づくりと暮らしは自然と共にあります。


沖縄では昔から神々や祖先を敬い感謝するという行事が数多く行われていますが、ここ粟国島でも、このような行事は年間六十を超えています。
豊年・豊作祈願のため舞踊をしながら島内すべての家屋を訪問する行事、大漁祈願のための爬竜(ハーリー)競漕の神事、伝染病などが蔓延しないようにと祈願する神事、神様を島に迎える祭りなどがあります。中には害虫が発生しないように農作物の寄生虫を焼却しながら祈りを捧げるという沖縄でも珍しい行事もあります。
これらの行事のほとんどは旧暦(太陰太陽暦)で行われるため行事が行われる日にちが毎年変わりますが、島では旧暦も周知されているため混乱は起こりません。
昔は当り前のことでしたが、今でも島の子ども達は旧暦を併用した生活で、海の満ち引きや天候、農作業等の状況を判断できる自然感覚が養われています。


現在、日本を含め世界の国の多くが新暦(太陽暦)によって一年が流れています。
旧暦を併用している国は、中国などの東アジアの国々と東南アジアなど僅かな地域のみです。その他では月の満ち欠けだけで日を数える太陰暦がイスラム圏で使われています。
新暦(太陽暦)と旧暦(太陰太陽暦)には次のような違いがあります。
新暦は太陽の周期を中心に一年を換算します。地球が太陽の周りを一周(公転)するためには三百六十五日と六時間かかります。端数の六時間を調整するため四年に一回二月二十九日(閏日)を設け調整します。新暦は日付を明確にすることができ、古代エジプトでは王様の即位した日付を明確にするために取り入れたと言われています。
旧暦は、月の周期を中心に太陽の周期を取り入れ一年を換算します。月が地球の周りを一周するには約二十九日〜三十日かかります。一年で換算すると三百五十四日と八時間かかります。地球の公転との間には約十一日の差が生じます。その差を解消するため三年に一回、閏月を設けます。
旧暦は月の満ち欠けを利用しているので地球の自然の変化に即した暦で、新暦に比べ自然と共生する知恵に満ちています。農作業においては種まきの時期、肥料を撒く時期、収穫の時期などと密接に関係しています。漁業においてもどのような魚がどのような時期に獲れるかを知るためにも暦が利用されました。
そのため、現在も漁業や農業のような自然を相手にしなければならない職種の関係者は旧暦のカレンダーを利用しているといいます。
明治五年(一八七二)まで旧暦で生活していた日本は、明治六年(一八七三)明治維新後の急激な欧米化により新暦(太陽暦)を国の基準としましたが、旧暦の生活感は、今でも日本人の体にしっかりとしみこんでいるのではないでしょうか。


弊社では六年前から旧暦のカレンダーを作って、多くの方から共感を頂いております。
初めて旧暦のカレンダーを見ると、まず毎日の月の満ち欠けの月齢の図が目に付きます。さらに潮の満ち引き、九星、干支、六曜、粟国島の神事などが書いてあり、自然と共に一年を歩むという流れになっていることが分かります
旧暦を参考にして、今一度昔ながらの自然との共生を顧みてはいかがでしょうか。



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