No.297







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●長芋の御到来が重なった。長芋を普段儂は鬼卸しで荒く卸して、同量の納豆と和えて食すことが多い(納豆はほとんどこの方法で酒の菜に、あるいは熱々の飯に載せて食らう)のだが、これではなかなか長芋の量(はか)が行かない。そこで長芋を輪切りにして、単純にひと炙(あぶ)りしてみた。熱々のそれに山葵ちょい載せの醤油ひと垂らし…これが思いの外口に合う。まず愛飲する東北の酒がこれを悦び、釣られて儂の頬もしだらなく綻(ほころ)んだ。輪切りついでに蓮根も同様の輪切りにし、炙りついでにその蓮根も火炙りにした。初めは皿に盛ってから少しだけ塩を振ってみたけれど、二度目は何も加えずに、それで十分と感じた。酒と儂は手を打ち足を踏んで嬉しがった。素っ気ないくらいの素朴さが儂のような者の口に頂度いい。「蓮根の穴が旨い」というジョークがあるけれど、儂はしかし、冗談抜きにホントに「穴が旨い」と思っている。ついでのついでに…というか、言うなれば唯の悪乗りだけど(色白の長い根っこ繋がりで)残りものの大根も同様の輪切りに処した。そして炙りついでに炙ってやった。「これはちょっと…」という感じだった。結論を記そう。(其々の好みではあるが)大根に関して、儂は今後とも風呂吹きやおでんなど…やはり煮物対象としてのお付き合いを続けたいと思う次第です。栃尾の油揚げもただ火に炙り、薄作りのじゃこ天もやはりひと炙りして、これらはたっぷりの大根卸しを載せて口に運ぶ。どうでもいいようなものをシンプルに…あまり余計な手を加えずにやるのがイチバン。山の行程を早目に切り上げて、木屑を集めて火を熾し、その火を囲んでいろんなものを炙り食いしていたかつての愉しさが、ふと蘇ってきたりする。

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