No.298







.

●若い頃は、牡蛎は生で食すもの…と思い込んでいた。某レストランのオイスターバーや、その他の和食の店々で食すのが専らだった。偶さか家で牡蛎鍋のようなものを食すことがあっても、馳走として格別な想いはなかった。時が流れ、やがて牡蛎の生食を遠ざけるようになった。何かコレといった理由があってのことではない。自然に口が求めなくなっただけのこと。老いて家で呑むようになり、酒の菜を自ら“おままごと”するようになって、そこら辺のスーパー(市場のこと)で牡蛎の剥き身を買い求めるようになった。酒煎りにしたり、時雨煮にしたり、雑炊にして食べる。剥き身は(ご存知のように)「生食用」と「加熱用」というものがある。生食するわけではないけれど、儂は専ら生食用を買っていた。その方が見た目がキレイだから。だが(二年前の)ある日に何気なく加熱用の方を買って帰り、これを単純に“火炙り”にして食い、そしてこのスタイルにすっかり嵌まってしまった。たとえ見た目が冴えなくとも、雑菌などが多くとも、何かの処理をしている生食用よりは加熱用の方が旨いような気がした。という訳で、これを卓上の弱火でじっくりと炙り、柚子コショーをチョイのせし、「吟醸純生醤油」を一滴落とし(あるいは何も加えなくてもよい) てパクリとやる。この季節、連日連夜これをやりたくなる。ただ連夜は気恥ずかしいので、真鱈の白子の炙りと交互にやったりする。それでもやはり気恥ずかしい。こんなに沢山食べて大丈夫か…と思うほど食べてしまう。こんな養分たっぷりのものを食うと健康に良くない…などと思いつつやってしまうのである。[追記]キリキリ国の人達よ、北の旨い牡蛎も、儂ら待ってるゼ。

.

Copyright (C) 2002-2012 idea.co. All rights reserved.