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今から四十年ほど前、私は子供の頃から病弱だったので、体質改善のためヨガ道場に通うようになり、その中で自然食療法やマクロビオティック健康法(正食)を学び、実践しているうちに塩の力というものを実感するようになり、それが私の塩作りの研究を始めるきっかけとなりました。

現在、世界中の多くのスターやスーパーモデルなどが、健康維持と美容のために着目し、実践しているのが「マクロビオティック」です。アメリカやヨーロッパから伝わり、日本でもここ数年ブームになり、書店には多くの関連本が並んでいます。その発祥は、実は日本で、伝統的な日本食の食養・正食の考えを基に理論化された食事療法です。マクロビオティック(フランス語)は直訳すると「生命を大きな観点から捕らえた健康法」という意味です。

その歴史は、「食育」の生みの親である明治時代の軍医・石塚左玄の食物に関する陰陽論が根底にあります。左玄は「陸軍三奇人」と呼ばれた人で、明治維新後の日本では世を上げて薬や肉食の効用を提唱する中で、薬に頼らず、玄米と野菜の治療効果を説いていました。西洋医学では消化に良くないとされた玄米や小豆を、逆に胃腸病患者に勧め、薬よりも病気に対する抵抗力、免疫力を高めることを重視しました。またナトリウムとカリウムの陰陽のバランスを重視し、無機微量元素理論を提唱、その理論は西洋医学よりも科学的でした。日清・日露戦争では、兵士に蔓延した脚気に対しても有効な予防法を左玄は持っていましたが、上官であった陸軍医の森鴎外などが脚気病原菌説をかたくなに主張したため、多くの兵士が脚気に患ってしまいました。

その後、左玄の著書を学びマクロビオティックを完成させたのが桜沢如一です。桜沢は左玄の食事療法(食養)を通し、更に踏み込んだ独自の研究を行いました。それは、玄米を主食とし、野菜や漬物や乾物などを副食とすることを基本とし、独自の陰陽論をもとに食材や調理法のバランスを考える食事法でした。日本に伝わる食養法と、東洋思想の「易」の原理を組み合わせて、「玄米菜食」という自然に則した食事法を確立し世界に広めました。すべての健康な肉体と精神、そして病気は食べ物と環境からくるもので、現代人の多くが病んでいるのは、食の過ちによるという考え方で、特にフランス、ベルギー、アメリカで急速に広まりました。細い体型を維持しつつ持久力が必要なバレリーナやダンサーが実践していることも話題になり、後に日本に逆輸入されました。特にアメリカでは、一九七七年、食生活が生活習慣病の増加をもたらしたとの反省から、動物性タンパク質や脂肪を減らし穀類や野菜を中心とした食事が目標とされました。それを推進したのが、桜沢の弟子達で、彼らは世界中を巡りました。中でも、アメリカでの普及に尽力したのが久司道夫で、スーパーモデル、マドンナ、トム・クルーズ、マイケル・ジャクソン、カーター元大統領、クリントン元大統領など各界著名人をはじめ約二百万人が実践しているといわれています。

桜沢如一のマクロビオティックなどの著書

さて、マクロビオティックの基本的な理論を簡単にご紹介します。
一、「身土不二」 地元の旬の食材や伝統食を食べることにより、健康で免疫力の高い体をつくる。
二、「一物全体」 食物は全体として調和していて不要なものはない。例えば、穀物は精白しない、自然塩はにがりを含んだもの、野菜は皮を剥かずに、小魚は丸ごと食べるなど、食物は丸ごと命を大切にいただく。
三、「穀物菜食」 穀物と野菜、芋、豆、海藻類を中心とした食事。比率は主食が五、副食の野菜や海藻類が三〜四、魚介類を中心とする動物性食材は一程度を目安に。
四、「陰陽の調和」 「陽」は収縮していく求心的なエネルギーで、体を温める働き。「陰」は拡散していく遠心的なエネルギーで、体を冷やす働きが有るとし、この陰陽の原理をもとに、食べ物の性質を細かく判断し、調和させる。
五、「食べ方」 食物の吸収・消化をよくし、食べ過ぎを防ぐために、少なくとも五十回以上は噛む。穀類や野菜、海藻を中心に、タンパク源は魚介類と大豆製品などをとり、飲物はコーヒー、アルコールは避け、刺激の弱いお茶を飲み、食材や調味料は、オーガニック、天然醸造、にがりの良く馴染んだ自然塩を使う。また食品を陰陽(カラダを冷やすものと温めるもの)のバランスで判断し、調和のある食べ方を基本とする。

マクロビオティックでは、塩も大切な要素として、特ににがりを含んだ自然塩を使うことを推奨しています。私は食事法も大切ですが、もうひとつ食の原点である食物の命への感謝の気持を忘れないことも大切だと思います。

〈参考文献〉桜沢如一著「無双原理の易」



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