No.299







.

●昔々、五穀豊穣の祈願に馬を贄としたらしい。当然直会として食す。のちに献馬は土馬や木馬や馬の絵だけで代行するようになった。その絵馬が小型化し、そしてそして何時の間にか入試の合格祈願に変身してしまった。歴史はオモシロイ。肉食に関しては何度も禁止の御触れが出たという。牛馬鶏犬の家畜類と人に似た猿の五種のみ。それも四月朔日から九月晦日迄。奇妙に現代の禁猟期と重なる。

▲儂自身が鮪を好まぬことに気付いたのが三十路の前半だった。同じ頃牛肉もやはり好みではないことに気付いた。特に因果はないが丁度山通いを始めた時期と一致している。嘗てはブルゴーニュの煮込みが好きだった。別の国のローストビーフも好物で、その町へ行くと真先にその専門店へ足を運んだ。女人禁制・知らぬ客同士を同じテーブルに着かせる…という変な店だった。あのローストビーフだけは今でも食べたいと思う。その他ステイクス&キドニー・パイやストロガノフだって嫌いじゃなかった。三十路を越して何故か生活感が変わったみたいだ。

■今は海からも山からも距離のある中途半端な土地に暮らす。好きな魚(磯付きの…など)も好きな肉(鹿や山鳥のロースト)も入手困難である。東京なら可能のはずの羊や七面鳥や…鴨すらもこの町では目にすることがない。野菜だけは不自由しないけれど、海山の二幸に恵まれぬ不遇を託っている。牛を食わぬ儂に今許されている肉といえば豚と鶏のみである。幼豚の丸焼きもアイスバインも今は食べる機会がないけれど、和式の薄切り豚は鍋ものや炒めものに調法している。今、鶏の笹身に梅肉を絡ませて炙り、大葉を巻いて摘みながらビールを一缶だけやって、この原稿を書き始めた…ワハハ。

.

Copyright (C) 2002-2012 idea.co. All rights reserved.