「ヒュー、寒い!」
コンピューターに向かってアミがつぶやいた。
「寒い? 寒くなんかないわよ」隣で、やはりマックに向かっていた私は笑った。デンで、ふたつ並んだマシンを操作していたときのこと。二階に張り出した狭い書斎を「デン」と英語で呼んだのは、ずっと前、ここを建て増しした建築家の建畠嘉門。
「一年で八キロやせたんだもの、“肉厚”でなくなって寒いのよ!」アミは主張した。「ママは元々スリムだから、わからないの!」
「そっかー! 減量ね、気がつかなかったわ」
いつの頃からか目方が増えたのが悩みの種だったアミは、正確にいうと十か月でダイエットに成功。以前の服を着られるようになってニッコニコだ。メニュに注意した以上に、ご飯を減らしたのが効いたらしい。
「体重を減らしたくて、朝食もパンをやめてご飯にしてるし、ママはバターたっぷりのトーストだけど、私はあっさりなのに」とヘルスチェックの際、親しい医者に話したら、
「ご飯も太るんですよ、炭水化物ですから」と言われて、ナール! 「ご飯用心」に開眼した。
減量には、東電フクシマの放射能汚染も働いた。なにしろ、あらゆる食品に注意して、安全度の少しでも高いものをとらなくちゃ。政府の発表など信じてはダメ。外国は「あれで日本は民主主義? 嘘だらけの政府発表」「日本のメディアは腰抜け。ほんとの報道をしていない」など批判。
「なのになぜ日本人は怒らないの?」と私たちまでバカにされる。ほんとは怒ってるお母さんたち、市民大勢でも、それも報道されないからだ。安全な水や食料を買ってストックする「ロジスティックス」は時間、体力、神経を消耗する。おかげでアミは細くなった。
前からうちの夕食は野菜が多かったけれど、この冬はさらに方向転換中、あったかいスープ! そして悪い環境のなかでも楽しく食べよう! ――が進路だ。
「ママー、カブのスープ、どっちでやる?」アミが下から叫んだ。「マリオ? リーガ?」最近の彼女はスープに燃えて、私はお株をとられた感じ。私は急ぎ一階のキッチンへ。大きな真っ白いカブがキッチンで光っている。
「地球人倶楽部のだから、すごいでしょ!」アミが手で示した。放射能から遠い土地、熊本産のカブだ。私は即座に、
「気分はマリオね、簡単でクリームなし!」
リーガロイヤルのカブのスープは、葉っぱや茎まで使うので好きだけれど、クリームもたっぷり、手間もたっぷりの料理。クリームは太る!
うちの料理本で、スープでいちばん重宝するのが、マリオ。『マリオのイタリア料理 スープ』で、全六巻の一冊、スープが五十五種類も出ている! 繰り返しつくるから、本はボロボロだ。草思社の一九七九年版。アマゾンでいまも買えるが、検索したらスープは中古のみで四千八百円。
「地球人倶楽部のカブはモノがいいから、いままでは皮むかないでいたけど、原発事故だから、もったいないけど一応むくわ」とアミ。「カブは先に茹でるってあるけど、これは柔らかいから、ダイスカットしたのを、そのままバター炒めする。お米は二分の一カップよ」
イタリー式はお米一カップを茹でてから入れるが、うちでは半分が適量。どろりとしすぎるから。チキンブイヨンで煮て、食べるときパセリとパルミジャーノ(パルメザン)をふりかける。 |