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久しぶりに親しい友達を誘ってアミと三人、ブリヂストン美術館のジョルジェットでランチ。

「日本てひどい国ね! 放射能垂れ流しなのにまだ原発なんて」。話題は、絵を見てもそっちへ行ってしまう。彼女に限らず、友達との会話の中身が ・ 後、変わった。

「ジュゥエリー三万円より、自転車の三万円ね。自転車なら移動できるもの!」や、「うちは十八階で万一のとき動けないから、ペットの餌と人間用をストックしてるの」などと。

そして、みんなが倹約! を叫んでる。なにしろ「水や食料の非常用ストック、ライト、ガスボンベ、消火器……」。方々の家庭で、日ごろ不要だったものを揃える、その費用がワーオだ。ふだんの生活費プラスの出費だもの。

お金ヤーイ! と叫んだって、天から降ってくるわけないから、倹約するしかない。福島に同情しつつ、東京もライフスタイルを変える途上にある。生活防衛、でも、安全でおいしい日々の食事を忘れちゃだめ! がみんなのキモチ。

アミは夜、キッチンを片付けながら銅製のやかんにきっちり一リットルの水をいれ、沸かしたのをテルモスにキープ。このお湯も翌朝生かして使う。ご飯を一合炊いて、小さなおむすびにしておく。「夜中に何が起きてもいいようにね」。

無料アプリの「揺れくるコール」をiPhoneに入れてあると、夜明けに警報が鳴ったりする。ぱっと飛び起きて見ると、千葉県中部、震度四など。東京の私の家のあたりは震度二ですんでも、震源地が東北から関東に近づいているのが不気味だ。

「でも」私はアミに言った。「こういう用心て地球相手と、納まらない原発の不安ね。パパたちの時代は大戦争で、日本中がどうなるか分からなかった。よく無事に切り抜けられたわ。親の苦労は大変だったはず」。物資の調達と家族の疎開。先見の明のある両親の庇護で、私はもっとも安全に戦争を切り抜けたひとりだった。国は個人を守らない、と私は子供心に肝に銘じた。

今はさいわい、日々は平和だ。倹約しながら楽しく、おいしく暮す工夫をすればいい。食べたい料理をつくるのは大前提。心がけていることは、一にいい材料を使い、二に一回作って二度食べられる料理ならベスト、三にアタマを駆使してステキなレセピを発見する! 四に材料はぜんぶ生かして使う。


踊るおいしさ、"簡単" オニオンスープ!


最近のうちのヒットは、二つ。「コーシャ」のローストチキン、そしてフレンチ・オニオンスープ。後者は外で食べれば、いい値段をとられる。女は言う。
「オニオンスープってすごく時間とらない?」
「夫も大好きだけど、家じゃ作らない!」
ノー! やり方次第です。初めてトライしたのは、電気屋さんが契約アンペア数を減らす工事をしてるとき。配電盤はキッチンとひと続きのユーティリティにあるから、工事の様子を見ながら、オニオンをきざみ始めた。

レセピは、パリのコルドン・ブルウ。オニオン四百グラムと、レッドオニオン小1個をスライスして、大さじ2、つまり30グラムのバターで、焦んがりするよう20分いためる。ここが成功のポイント。なぜならこのカラーが、オニオンスープの焦げ茶色の元になるからだ。強めの中火がベストだ。弱いと20分じゃ黄色で、40分かかる。

ガーリック一片をチョップして入れ、白ワイン200ccとブラウンストックを1.5リットル入れるとある。レ、レ、レ、これ何? ジュリア・チャイルド、ジョイ・オブ・クッキングを開くと、ノー! とてもやっていられない複雑なストックだ。

やっちゃえ! 水1.5リットルにフォン・ド・ヴォの缶詰を入れた。二度目はパック入りのでトライ。どっちもOK。ブーケ・ガルニを入れて30分、弱火で煮て最後にシェリーを大さじ1。

食べるときは、温めたスープボウルにすくい、上に炙ったバゲットのスライスを二枚、グリュイエールチーズのシュレッドをたっぷりのせる。みるみる、チーズが溶けて、すばらしい一皿。もうこれだけで夕食になるくらいリッチな味。あとはサラダですんでしまう。

このおいしさを明かすと、バゲットの質にもある。〈ルヴァン〉の自然発酵で焼いたバリッと皮の硬いバゲットだから。普通の白いのではこうはいかない。

ローストチキンは、まるのままのチキンが1.2キロのサイズで1200円ぐらい。トリの産地によっては、放射能はどうかなと気になる。 宮崎県のは割高だ。 答えは「コーシャ」にあった! 

これはユダヤ教の教えにそって処理されたチキンのこと。聖書どおりに処理されてないと信者は食べられないから、ユダヤ教徒のために、冷凍の輸入品がある。なんとプライスタグは、1.2キロがたったの600円。100グラム50円! 店の人も「外国は規則が厳重だから、質はまちがいありません」。プラスティックパックの表に「鋭いナイフで手で屠殺した」とはっきり印刷してある。機械なんかで、残酷に殺したのじゃないニワトリだ。

アミとふたり、チキンを前に考えた。
「冷凍のこのサイズ、やったことないわね」
「そ、冷凍のダックリングは二キロだもの」

考えて、まず塩と砂糖の水に一日浸けて(ジャン・ジョルジュのレセピで、よくやる)、次に初めてのトライ、イタリア料理のレセピで、拭いて乾かしたチキンの中に粗塩、ブラックペッパー、オニオンのカットにクローブを刺したのを詰め、しっかりしばって、外側にバターを塗って塩をふり、周りにカットしたオニオンやパセリを散りばめ、アルミ箔できっちり覆ってオーヴンへ。

出来上がりはジューシィで、そのおいしかったこと! 食べたあとの骨プラス、フリーザーにストックしてあるトリの皮でプルプルのスープをとった。その皮はまた再利用だ! 厚い鉄のフライパンで焼くと、皮の脂でパリッと上がる。これらの元手は六百円。つくる甲斐があるとはこのこと。倹約はこうして大成功!  


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