No.212




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●机の片隅に置いた小さなラジオのスイッチをオンにしたら、いきなり「♪渚へいこう……」と唄う、ちょっと旧いパフィーの声が流れてきた。唄につられて、ついつい、こんなタイトルになってしまった。「この季節に苦瓜の話でもなかろう」と思われるに違いない。些かワケがある。たわいのない理由だ。以下はその言い分けである。

▲季節季節に嗅覚をくすぐる庭木がある。例えば沈丁花(じんちょうげ)、梅、栗、木犀(もくせい)……など。その木犀の芳香を酒の中に閉じ込めて保存できないだろうか……と考えた。前年の十月に三十五度の焼酎を買ってきた。黄色い小花も笊いっぱい採取して、陰干しにした。そこまで準備したのだが、儂の体調のせいかどうか、肝心の花があまり薫らない。甘い期待感は急速に萎えてしまった。数日後に花を捨てた。焼酎も……いや、さすがにそれは捨てなかった。後々九か月間埃をかぶることになる。

■儂は焼酎を嗜む習慣がなかったので、そのまま残った。夏の初めに、ふと思い立ってゴーヤーを切り刻み、焼酎漬けにした。両者を広口壜に放り込んだだけなのにこれが爽やかな飲料に仕上がった。漬け込んだゴーヤーの方もいい味だ。摘まみ食うだけで酔っぱらってしまう。呑まずとも齧るだけで酔えるのは、都合よく見えて実はなんとも間が悪い。呑みながら齧ると強いアルコール分が逆に邪魔になる。酩酊したアタマでまた考えた。壜から取り出したゴーヤー片に蜂蜜をたっぷり絡ませたのだ。これがまた旨い。茶請けにも御菜にもなるし、焼酎の摘まみにもこれならソコソコOKだ。冒頭で季節違いのテーマでどうも……とアタマを掻いたが、実はいま残暑厳しい中でこれを書いているわけ――。

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