僕は感心しきって、言葉も出ない状態であった。取材が終わり、引き上げようという時、
「自宅の方でお茶でもいかがですか、手揉みの旨い茶がありますから」
嬉しいお言葉に釣られて後に付いて行くと、ハウスの外の茶畑の間にひねこけた野菜が植えられていた。形は不揃いで虫食い後もある。
「あっ、あの野菜は鶏にでもやるんですか」
と、たずねると、
「いやいや、あれは自家用。形は悪いけんど味はいいだらー」
「あのハウスのは召し上がらないんですか」
「あはっ、あれは商売用だらー。農薬肥料がきついもんで、毎日は食べれんけんのー」
それからのことはよく覚えていない。恐ろしくなったことだけは、事実である。爾来、食べ物に関する意識が変わった。毎日漫然と食べていたものの、出所や品質が気になり出したのである。無農薬や低農薬、有機肥料による野菜や果物の存在も勿論のこと、いわゆる化学調味料とか添加物を使用していない食べものを、知らず知らずのうちに求めるようになって来た。
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