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最近ちょくちょく訪れる蕎麦屋の女将に、鉈南瓜(ナタカボチャ)を頂いた。鉈で叩き割るか、コンクリートのような固いところへ叩きつけないと小さく出来ないとんでもない奴である。俎板の上で包丁で切るなんてお行儀の良いことは、絶対に不可能である。だからであろう、おいしいにも関わらず滅多なことでは巷には出ない。

しかし、その味は唸るほどに旨いのだ。黄色い果肉の水分が少なく、保有糖度も高いようである。我が家では、出汁と酒と醤油を適宜に合わせ煮付けているが、てんぷらにしてもいいし、薄くスライスして炒めても抜群においしい。が、スライスが問題だ。僕は、一旦叩き付けて半分に割り、切り口を上にむけ中華包丁でなるべく薄くしている。

こんなに頑固なナタカボチャだが、一旦火を通すと面白いほどに柔らかくなる。あんなに固かった皮の部分でさえ、煮付けたものを口にするととろけるような食感である。しかも、おいしいのだから、こんなに有難いカボチャはないと思う。ま、カボチャ全般に言えることではあるけれど、カボチャというのはまことに日持ちがよい。風通しの良いところに置いておけば、かなりの間持つだろう。それに、屋根の上などの陽当たりの良いところに置いておくと、益々糖度が高くなるから不思議である。

この愛すべきカボチャだが、人を侮辱する時にも、

「この、カボチャ野郎」 

てな具合に用いる。面白いことに、カボチャ野郎という表現は外国でも結構使う。英語のパンプキンヘッドもそうだし、ブラジルではカベサ・ディ・アボウブラなどと頭の回転が悪くものわかりの悪い者のことを揶揄して使う。ということは、やっぱり外国でもカボチャは固いことの代名詞になっているのである。余談だが、ロシアの人達はあまりカボチャを食べないそうである、そのかわりキャベツを多く食べるから、人を馬鹿にする時はキャベツ頭というらしい。中がすかすかしているからだそうである。


Kubota Tamami

日本では最近とみに出回るようになって来た、カボチャの種類のズッキーニがある。

このキュウリのような姿をした柔らかいカボチャだが、シルクロードの道すがらの国々にはほとんどあったような気がする。が、残念ながら日本には渡って来なかった。どうしてなのだろうか。お隣の韓国ではホバッと呼んで、テンジャンチゲ(味噌汁のような鍋)に入れたり、ジョンというお好み焼きのような料理にもよく使う。もっと感心したのは、カボチャの葉っぱをさっと茹で、これに御飯をくるんで食べたり、焼肉をくるんで食べたりもしている。勿論、キムチにしてもことの外おいしいのだ。ついでのことに申し上げるが、韓国では大豆の若葉も茹でて同じように食べたり、キムチにもする。


そろそろハロウィンの季節、欧米では子供達がカボチャをくり抜いて目鼻を付けてかぶり、家々を廻ってはキャンディーを頂くという楽しい祭りがある。ま、日本でいう秋祭り、つまり収穫祭である。アメリカでこのハロウィンに遭遇したことがあるが、じつにさまざまなカボチャが売られていた。近頃日本でもよく見かけるおもちゃカボチャから縦長のもの横長のもの、中には直径が一メートルを超える巨大なものがあった。

こうした巨大なカボチャは、人間が食べるものではなく、そのほとんどが家畜の餌になるそうだ。だが、子供達の想像力は素晴らしい。カボチャをかぶるだけではなく、くり抜いたカボチャの中にロウソクを立てて、灯ろうにして玄関先に飾ったり窓辺に置いたりして楽しんでいた。まことに微笑ましく、わくわくするようなお祭りだ。

このハロウィンの祭りには、女の子達はお母さんやお婆ちゃんに、カボチャパイやクッキーの作り方を習ったりするそうだ。僕も道を歩いていて、この微笑ましい様子を垣間見ていたら、かわいい七、八歳のお嬢さんが近づいて来て、パイを馳走してくれた。僕にはいささか甘かったが、カリッとして中々おいしかったし、それ以上に嬉しかったことを思い出す。こうなれば、今年のハロウィンには、カボチャスープかカボチャケーキを作って、あの楽しかった祭りを再現してみようかなー。