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 ここ半年ばかり、キノコのパスタにはまっている。勤務先のすぐ近くのイタリアレストランで、キノコのパスタを昼食に食べて感動したのがその始まりだ。

イタリアの代表的なキノコである生のポルチーニ茸をベースに舞茸や最近流行っているエリンギ茸といったキノコを混ぜ合わせて調理し、タリアッテーレと呼ぶ日本のひもかわうどんのような平打ち麺と絡めたものであった。ポルチーニの香りが他のキノコに移り、何とも言えぬ旨さを醸し出していた。

そこで、築地の中央卸売市場の蔬菜(そさい)部に出向き、生のポルチーニ茸を探したのだが、残念ながら見つからなかった。あったのはセップ茸と呼ばれている、ポルチーニ茸によく似たフランスのキノコであった。一説によると、ポルチーニとセップは同じ仲間で、味は殆ど変わらないそうである。

とにかくこのセップ茸を手に入れ、レストランで食べたキノコパスタを再現してみたのだが、どうにもポルチーニの香りが出ないのだ。やっぱりポルチーニでないと駄目だと諦めかけていたら、乾燥ポルチーニを水で戻して混ぜると香りが出せる、という話を耳にした。


Kubota Tamami

早速教えられた通りに乾燥ポルチーニをぬるま湯に浸し、キノコは適当な大きさに切り分けた。どう作ったかざっと記してみよう。先ずパスタ(タリアッテーレ)を表示時間よりやや少なめに茹でる。その間に、オリーブ油でタマネギを小振りにしたようなエシャロットをスライスにして刻みニンニクと共に炒める。しんなりしたところでキノコを数種加えて、白ワインを少しとポルチーニの浸し汁を足して塩味を施す。

そこに、茹で上げたパスタを加えバター大匙と生クリーム半カップを加えて一気に混ぜれば完成。

最初に食べたレストランには申し訳ないのだが、材料を潤沢に用いた分だけ我がパスタの方が出来が良かったのではあるまいか。本来ならば、パスタマシンを用いて打った手打ち麺の方が旨いのだが、そこ迄することもないだろう。どうせこだわるならば、キノコではなかろうか。


 とは言うものの、今は天然のキノコなどある筈がない。乾燥ポルチーニと市販されている栽培キノコで充分である。

てな塩梅で、キノコパスタにうつつを抜かしていたら、昨年の十二月になってからとんでもないシイタケが送られて来た。

西伊豆の土肥でシイタケ栽培を営んでおられる杉本勝彦さん(0558-98-0820 FAX すると手に入るかも)からの冬茄(どんこ)の生椎茸である。

天白冬茄と言うべきか、笠の上に幾何学模様のような白い筋が入っている美しいシイタケである。生シイタケというと、しっとりふわふわとしたものが出回っている。ところが、杉本さんのシイタケはかなり頑固である。それに、ど偉く香りがよい。

十二月から二月一ぱいという寒い間だけしか採れないこの冬茄、生で齧ると何と白トリュフの香りがするではないか。しかも、品の佳い味がする。

これはパスタにしない手はない、と思いつきアーリョ・オーリョ・ぺぺロンチーニ(ニンニク・唐辛子・バージンオイル)を作り、チーズ下ろしでシイタケを粉にしてかけたところ、とんでもなくおいしいのだ。よくイタリアンレストランでパスタにトリュフを削り下ろして味わうが、それに勝るとも劣らない。

考えてみたら、地元の人達はこのシイタケを下ろして、熱々御飯にまぶして食べていた。僕は、この熱々シイタケ御飯に薄味の出汁をかけてみた。これも、花丸である。

今回言いたかったのは、世の中に出回っている食材を、固定観念で料理してはならぬ、ということだ。全ての食材を、改めて見直して、自分流の料理として定着させる。こんなことも、スローフード運動の流れを大河とする一滴になるのではなかろうか。