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最近、スローフードに関する問い合わせがかなり多くなって来た。その何れもが雑誌社からなのだが、いささか的がずれていると言うか考え違いをしているのか、情けなくなる話ばかりである。

「檀さん、今度スローフードの特集をするのですが、全国のおいしいものを取り寄せるにあたって、これはスローフードというものを推薦して頂けませんか」 とか、

「東京のレストランの中で、スローフードなお店を紹介して下さい」

なんていう、馬鹿馬鹿しい話ばかりなのである。また二次加工品メーカーから問い合わせがあり、

「スローフードの新しい組織を作りたいのですが、一つ御指導頂けませんでしょうか」

と言った腹の立つ話もある。商品の売り上げがこの不景気で落ち込み、その埋め合わせをスローフードに託つけて伸ばそうという目論みらしい。

だったら、本当においしい商品を堂々と作り、それを世に問えばこれは絶対売れる、と僕は思う。そんな努力を忘れ、スローフード運動が盛んになってきたのに目を付け、あわよくば便乗しようという魂胆が見え見えである。

これは、我々消費者にも問題があるのだ。何が旨いか、何が安全な食べものかを、御自分の価値基準を設けて判断して頂きたい。確かにリンゴやミカンやイチゴのようなものは、見ただけではどれが安全であるか、より低農薬で作られているかさっぱり分からない。だとすれば、より姿かたちの良いものを選んでしまうのが、当然の成りゆきであろう。


Kubota Tamami

だが、ここでもう一歩踏み込んで、農水省に的確な表示を義務付ける運動を少しずつでもすればいいのだ。 魚の干物にしたって、外国産のアジを日本のどこかで干物にすれば、その土地の生産物として扱われて来た。

この問題が、最近ようやくにして改善され、魚の本籍と干物の生産地をきちんと分けて表示しなくてはならなくなるようだ。こうした、言わば当たり前のことを我々は長年に渡り見逃して来たのである。

僕は、こうした消費者の声を役人に届けるベーシックな運動こそが、スローフード運動そのものであると信じている。

だが、スーパーやデパ地下で売られているものの九九パーセントの加工品には、表示されてはいるが、明らかに体にはよろしくないだろう添加物が含まれている。大方の人々が、賞味期限ばかりを気にして添加物の存在を忘れているのではあるまいか。

僕は、雑誌の編集者の方々に声を大にして提案したい。スローフードの特集をするならば、食品添加物の特集を是非是非やって頂いて、我々消費者にその恐ろしさを教えて欲しいのだ。

残念ながら、雑誌のスポンサーの多くは大手の食品メーカーが多い。となると、こうした企画を出すと悲しいかな次号から広告を出さなくなるのは必定だ。いっそ、どこかの大手メーカーが、自ら金を出してキャンペーンをして頂けないだろうか…。もう、そうした時代が来ているのである。

そこで今回は、絶対安全な魚の干物を作ろう。魚屋さんに小アジやヒシコイワシが売っていたら、アジは開きにして貰い、イワシは丸のまま持ち帰る。

いずれも、一回よく洗い、ザルに置く。これを、ややしょっぱい塩水の中に、アジは約一時間イワシは二時間漬け込む。どうせなら、塩は天然のものを使おう。漬け込んだ魚は、軽くペーパータオルで水を切り、イワシは目に金串を通し並べ、風通しのよい所に吊るす。アジは始めに身の方を上にしてザルにならべ、表面が乾いたら裏返す。太陽の下なら五、六時間、夜なら一夜干し。

これだけで、かなり旨くて安全な干物が楽しめる。でも、カラスにだけは御用心。彼等も、旨いものは知っている。