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2002年ワールドカップ開催迄、もう秒読み段階に来ている。この、韓国と日本で開かれるワールドカップは、勿論サッカーも楽しみの重要なファクターの一つであるが、それ以上に過去の忌わしい歴史において生じた両国の関係修復の上で、新たなる前進になるものと大いに期待している。

韓国は僕の大好きな国で、近いということもあり、少なくとも年に2,3回は訪れているだろう。韓国の何が好きかと申すと、これは一重に食べものにあると言ってもいい。で、どんなものが好きかというと、韓国の大衆的な料理がいい。しかし、韓国料理の中でただ一つだけ食べられないものがある。ポシンタンと呼ばれている、犬肉を使った鍋がそれだ。寒くなると一部の方はポシンタンを召し上がるようで、僕も誘われたのだがこればかりは固く辞退した。もしすっかりはまってしまい、我が家の愛犬共が旨そうに思えたら一大事、家には入れて貰えなくなるだろう。

韓国の食堂というか食べもの屋さんの特徴は、一つの店にあれやこれや置いてないことだろう。一村一品運動ならぬ、一店一品というところが多い。勿論、同じ系統のメニューはあるが、多くて五、六品ではなかろうか。例えば、釜山に東莱(トンネ)という温泉町があり、そこのトンネ・パジョン(韓国風お好み焼き)の店が全国的に有名で旨いのだが、海鮮(イカ、タコ、エビ)ものか豚肉か牛肉かキノコくらいしかない。あとは、マッコリ(どぶろく、濁酒)しか置いてない。当然、三種類のキムチに、二、三品のおかずと味噌汁(テンジャンチゲ)はついているから、もうそれで充分なのである。


Kubota Tamami

あれやこれや置いてないメリットは、店側も他に無駄な準備をする必要がないからいい。だから、今日は焼肉を食べようと思うと、選ぶのはロースかカルビだけで、後は塩味にするかタレ味にするかだけだ。もし、ミノとかホルモンが食べたい時には、その専門店に行くのである。もし、贅沢にドーンとやりたいのならば、韓定食の専門店に行けばこと足りる。日本で言えば、懐石コースのようなものである。店のランクや地方によってもその内容は異なるが、驚くなかれテーブルに乗り切れないような数の料理が並ぶのだ。しかも高級店に行くと、チマチョゴリを纏った絶世の美女がマンツーマンで着いてくれ、食べること飲むことの全ての面倒を見てくれる。


ただし、食事の後の面倒は一切見てくれないから、余り感情移入をなさらぬよう呉々も御用心。

やはり韓国は、何てったってキムチの国。11月のキムジャン(キムチを漬ける)の季節になると、ソウルのカラクトン市場にはそれこそ数百台のトラックが白菜や大根を満載にして、ずらりと並ぶのだがその光景は圧巻だ。いささか寒いが、一生に一度だけはこんな景色を見るのも悪くないと思うので、是非一回見て頂きたい。世の中にこんなに白菜があるのかと、感動のあまり思わず落涙してしまった思い出がある。聞くところによると、韓国の方の白菜の消費量は、何と日本人の二十倍であるとか。大変な量である。

韓国の白菜は日本のものと、いささか異なるような気がする。白菜と山東菜の中間のようだし、味も違う。実はこの韓国の白菜を作った人は、韓国人を父に持ち日本人の母を持った日韓のハーフなのである。禹長春(う・ながはる)博士という植物学者で、日本で生まれ東京帝国大学農学部農学実科(現農工大)で学んだ後、農林省に勤め多大な研究成果を収める。が、差別により報われずに民間のタキイ種苗へと転職。その後、素晴しい学術的成果を上げられ終戦を迎える。終戦後、韓国国民からの強い要望により、韓国を訪問し韓国で再び研究に没頭されるがついに他界。日本人の奥さんは、日本に置かれたままだったとか。しかし博士の没後数年して、白菜、タマネギ、キャベツの優良品種が韓国に登場することになる。禹博士なくしては、現在のおいしいキムチは存在しないのである。

という次第で、韓国はとことんおいしい国ということを、少しはお分かり頂くことが出来たであろうか。これからの季節、山菜がまことにおいしい。ワールドカップを機に韓国を訪れて、じっくりゆっくり韓国のスローフードを楽しんで頂きたいと願う。