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いよいよワールドカップの開催が近づいて来た。恐らく、日本の方もこれを機に韓国を訪れて、サッカーとおいしいものの二本立てを楽しまれる、なんていう羨ましい人も居られるに違いない。僕も、出来るなら韓国へ行って旨いものを食べつつ、ワールドカップを満喫したいと秘かに願っていたのだが……。

今の時季、韓国を訪れておいしいのは、何と申しても山菜ではなかろうか。日本と同じように山ウドやタラの芽なんてのもあるが、韓国らしい山菜は野草ではないだろうか。日本でも食べるゴギョウとかナズナの他にも沢山の野草が、市場で山と積まれて売られている。その一つ一つを手に取ってみると、どっかで見たような草なのである。

そう、我々が普段の暮らしの中で、知らず知らずの内に踏み付けていたり、雑草と思って抜いてしまったりしている草の中には、とてつもなくおいしいものが多々あるのである。昔の日本人ならば絶対に食べていた筈の野草は、文明が発展して行くことと比例してどんどん忘れ去られてしまっているようだ。ところが、韓国の人々は旨いものはとことん大事にしているではないか。

日本に於いては正月の七草粥だけに、僅かに残っている野草を食べる習慣。勿論、田舎に住まわれている方や山菜好きの方は、現在でもかなりのものを召し上がっておられるであろう。が、韓国の方々は当たり前のように、自然の恵みを生活の中に取り入れている。このことだけは、我々も是非見習って行かなければならないと考える。

で、韓国のどこで山菜料理が食べられるかと言うと、ソウルであれば仁寺洞(インサドン)という、旧市街地の骨董通りのような通りを目指して頂こう。


Kubota Tamami

通りの真中辺りに『山村(サンチョン)』という山菜屋がある。ここで、山菜定食を頼めば山菜のフルコースが楽しめる。値段だって、二千円弱だったのではなかろうか。またソウルには面白い山菜食堂がある。名前は失念してしまったが、何とキリスト教会が経営している山菜レストランがある。ハイアットホテルの近くにあり、かなり有名な店らしいのでお泊まりのホテルのコンセルジュに相談すれば直ぐに分かるだろう。きれいな店で、お酒も楽しめるからご心配なく。

この他、韓国に行って間違いなく山菜を食べられる所は、有名なお寺の門前である。旅行のガイドブックに乗っているような寺なら、必ず二、三軒の山菜食堂があるだろう。僕がよく訪れる通度寺(トンドサ)や松岩寺(ソンガンサ)海印寺(ヘインサ)といった、韓国の三大寺の周りにはかなりおいしい店があり賑わっている。海印寺の門前には、古い佇まいの韓国旅館があり、ここでは夜と朝の二 食がついて三千円ちょっと。食事は、相当においしい。


だが、何と申しても絶品なのが、通度寺の中にある瑞雲庵という小さな庵で頂く食事である。性坡(ソンパ)さんという元通度寺の住職が居られる所だが、そこではテンジャン(味噌)カンジャン(醤油)コチュジャン(唐辛子味噌)が添加物を一切使わずに作られ、売店で売られているから手に入れられるとよいだろう。韓国で最もピュアな調味料である。そして、昼飯の時間帯に運良く性坡さんとお会い出来お話が伺えた(性坡さんは日本語が話せる)方は、運が良ければおいしい山菜をふんだんに用いた精進料理が頂けるかも知れない。

もう一つ、これは今僕が必死になって探している寺である。日本占領時代に破壊されてしまい、かろうじて山門だけ残っていて、その門前の屋台のような店で食べた山菜のジョン(韓国お好み焼き)がべらぼうにおいしかったのである。だが、肝心な寺の名前をメモしていなかった為、未だにその寺に辿り着けずにいる。次回韓国を訪れる折には、必ず見つけ出す覚悟であるからして、近々にその所在を報告出来るであろう。乞う御期待。

そんな訳で、山菜、野草を訪ねて韓国という拙い話であったが、山菜こそ典型的なスローフードな食べものであると確信している。茹でてアクを取ったり、塩漬けや乾燥して保存したり、と。何はともあれ、苦味やえぐみのある食べものは、冬の間取れなかった様々な栄養素がぎっしりと詰まっているという。冬眠から覚めた熊になった積もりで、しっかり滋養を補って頂きたい。