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梅雨が明けて、連日のように猛暑が続いている。夏だから暑いのは当たり前なのだが、昨今の暑さはとても尋常であるとは思えない。これも、地球温暖化が原因となっているものなのであろうか。それとも、我々が脆弱になり過ぎて、夏の暑さに耐えられなくなってしまったのであろうか。

僕は自分のことを考えると、その両方であると思う。僕が乗っている車のことを考えてみると、3500ccのエンジンを積んでいるから、かなりの大型車と言える。昔は、1200ccとか2000ccクラスの車で充分満足していたのに、いつの間にか大きな車に乗る暮らしに慣れっこになってしまっている。ここ十数年以上、不必要な二酸化炭素をまき散らしてしまったことになる。

と同時に、エアコンに頼る頻度が多くなったことも事実である。七、八年前迄は、夏は暑いのが当たり前と言いながら、大粒の汗をだらだら流しながら厨房に立ったり食事をしたりしていた。ところが、飼っていた犬が寝たきり老犬となり、暑さに極端に弱くなってしまった。獣医に相談すると、夏の間は出来るだけ空調の効いた涼しい部屋に置いてやって下さいと言う。やる方なしにエアコンを取り付けた。が、これが僕の堕落の始まりであった。例え犬の為と言えども、快適さに慣れてしまうと後戻りが出来ぬのである。しかして、我が家はどの部屋にもエアコンが付いてしまうのだ。

エアコンばかりではない、冷蔵庫、テレビ、電話、ファミコン等々、かなりの電流が何もしていなくても流れていることになる。僕個人の暮らしのことを振り返っても大変なのだから、これが一億三千万人を支える暮らしとなると膨大な数字となってしまう訳だ。


Kubota Tamami

こればかりではない、我々が季節に季節の旬のもの以外のものを食べるのにも、莫大なエネルギーを消費していることに、誰も余り気付いてはいないだろう。

例えば、イチゴの季節は何時であろうか。一般的にイチゴが出回るのは暮から正月にかけてである。ところが、この季節には日本では露地のイチゴなんて存在しえない。

すべてが、石油を燃やすハウス栽培のものと言っていいだろう。勿論、南半球からの輸入品もある。だが、これとてジェット機に積まれて来るのである。イチゴばかりではない、ナスだってキュウリだってトマトにしても同じこと。今、我々が無意識に食べている殆どのものが、石油を燃やして生産されていると言っても過言ではないだろう。更に驚くことは、ハウス栽培というのは、暖房ばかりではないそうだ、高級な果物などは暖房はおろか冷房迄していると聞いたのである……。


これでは、地球は科学者の予想以上のスピードでヒートアップしてしまい、太陽と共にのどかに暮らしている人々の天国のような島は、近い将来確実に水没してしまうのであろう。このような問題のすべてが、人間が人間の暮らしをより良くしようとして、研究と努力を重ねて来た結果なのだから、皮肉としか言いようはないのだが、このままでは済まされる問題ではない。人間は人間のやってきたことの後始末をきちんとしなければ、人間社会はおろか、地球全体が滅びてしまうのも時間の問題ではなかろうか。

もう一つ、最近中国野菜の残留農薬のことが問題になっているが、これは中国だけの問題では済まされない。我が日本の一部でも、決して見逃せない事実があることが判明した。雑誌の取材で中部地方のモデル農家を訪ねた時のことだ。農林水産大臣賞やら総理大臣賞を総なめにした農家で、ハウスの中で葉もの野菜を栽培していて、それはそれは温度管理・湿度管理等が行き届き、一週間毎に収穫できるよう計画的に栽培されていた。収穫された野菜は、寸分違わぬ長さに揃えられ葉の大きさも均一であった。見事な出来である。が、後で分かったことだが、生産者はその野菜は農薬や化学肥料が怖いから絶対に食べないそうである。因に自分達の食べるものは、ハウスの外に無農薬有機肥料で作っているから安心であるとか……。

まったく思い出しても情けなくなる話だが、気を取り直して近所の低農薬有機肥料野菜を買いに出かけたのだが、夏場は葉ものは難しいそうだ。トマトとキュウリならあるよ、と言われたので二百円ずつ買い水で冷やして食べたら、夏の香りが口一杯に広がった。