三十年以上うなぎを焼いてきた職人、五代目当主、木村知正さんは今でも自らうなぎを焼く。
「その日のうなぎや天候で焼き方が変わってくる。その微妙な加減を見るのがむずかしい。もともとうなぎは手間をかけないと、きれいに焼けないものです。一番大事なことは、自分の目でしっかり見ること。カラッと焼き上げるのが美味しくするコツです。」
と、木村さんは両手にできた大きな黒いタコを見せてくれた。《いば昇》では全てのうなぎを生きたまま問屋から仕入れ、直火と呼ばれる、蒸さずに焼く“上方焼”。炭はもちろん備長炭を使用。タレはコクのあるたまりと醤油を使用し、自分の店に合った濃さにブレンドしする。お店で一番出るのはやはりうなぎ丼で、若い人や家族づれには「櫃(ひつ)まぶし」が人気がある。常連客が七割くらいで、うなぎ好きの人が四十年、五十年と通ってくる、本物のうなぎ屋さん。写真:上長焼


「櫃まぶし」は《いば昇》で考案された料理。木村さんのおじいさん(三代目)が戦前に考え出したもの。名古屋の味自慢の一つ。
タレを付けたうなぎを刻み、御飯にまぜこんで食べる。うなぎがあまり得意でない人も抵抗なく食べられる。若い人や家族連れに人気がある。写真:櫃まぶし


昭和25年に東本重町に新築された現在の《いば昇》
ちなみに、お店の名前の由来は、初めて自分のうなぎ屋を持った初代の店主が「これでやっと俺の居場所ができた」ということで“居場所”から《いば昇》になったとのこと。





うなぎ丼 職人の立場からいうと、本来丼が一番美味しいそうだ
櫃まぶし 若い人、家族連れに人気
長 焼 「長焼」とは蒲焼のこと
長 膳
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