この秋、十年ぶりに宮城県気仙沼市を訪れた。言わずと知れた港町、まかじき、めかじき、生鮮鰹、さめなどの水揚げ日本一を誇り、フカヒレは本場中国にも輸出しているという。

今回、生まれて初めて「もうかのほし」なるものを味わった。もうかざめの心臓である。酢味噌で食べるが、意外にさっぱりして癖がない。滋養豊富、スタミナ食だそうだ。また戻り鰹の刺身と、これも初めての大トロをいただいた。見た目は鮪の大トロとそっくり。旬の盛りの味を堪能した。

気仙沼には忘れられない味の思い出がある。前回訪ねたのは初夏だったろうか。仕事の後、地元の方々と夕食をご一緒した折、草柳さん、ほやはお好きですかと訊かれた。

ほやは主に都内で、酢のもので何度か食べたことはあった。でも好きか嫌いかというよりも、まるで人をからかってでもいるかのような、どこか人を喰ったような、何とも把みどころのない妙な味という印象を持っていた。私にとって積極的に食べたいものではなかった。

これは採れたてですよ、と店のご主人が鮮やかなオレンジ色のほやを目の前でかっさばいてくれた。ピューッと中の海水がほとばしる。一口大に切ったほやを口に含む。口中を満たす潮の香り。ぷるんとした歯応え。酢のものにしたほやとは全然違う。

すぐにビールを飲んでみて下さい、早く! とせかされ、あわててビールを飲むと、何とも言えない甘みが口の中に広がる。今まで味わったことのない独特な甘み。ほやとビール、それぞれの成分が作用して醸し出される味。

これが本当のほやの味なんだ。今まで食べたほやは本来の味ではなかったんだ。まさに目からウロコが落ちる思いがした。

ほんものを食べずして、美味しいとかまずいとか判断するのは大きな間違いなのだと実感した貴重な経験であった。


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