結婚して以来、主人にお弁当を作っている。

今時、珍しい妻だと自分でも思う。それを聞いた人は大抵「偉いわね」と誉めてくださる。でも現実はそんな美談では終わらない。何かにかこつけて休みたいと思っている。突然ガスが止まらないかな? とか、停電しないかしら? などと思ったりするが、そんな事はそうそう起こらない。今朝も眠い目を擦りながら、まだ冷えきった台所に立ち、卵焼きを焼いた。

“何故こんな事になったか?”初めがいけなかった。

結婚当初、主人から、

「会社では仕事が忙しくて昼食はコンビニ弁当を一、二分で食べる」
と聞いた私は、

「そんな食生活をしている人の子供は産みたくない。」

と即座に思った。そこで、

「それなら毎日お弁当を持って行ってください。」

とつい言ってしまった。

それ以来この習慣が始まったのだ。

でも、喧嘩した翌朝は本当に腹が立っていると、弁当を作るにも気合が入らない。だからといって自分から作ると言ったものを放り出すのも癪だ。何とか昨夜の敵を弁当でとれないか? と考えた挙句、日の丸弁当にした。

本当に日の丸だと可哀想なので、おかずは上から見えないようにごはんの下に敷き詰めた。会社に行って、お弁当のふたを開けたその瞬間の主人の顔を想像しただけでおかしくて、昨日の怒りもどこかに吹き飛んだ。

会社の昼休み。弁当のふたを開けた主人は、その瞬間さっと青ざめ、あたりを見回し、もう一度そおっとふたを開け箸で中を確認し、おかずを発見して胸をなでおろしたらしい。

喧嘩もこれで一件落着。たかがお弁当だが、お互い忙しい夫婦の橋渡しになっているのかもしれない。


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