おかげ様で、私は生まれながらの健康優良児? 好き嫌い云わず、美味しいと思うものをいただくときはつい顔をほころばせている……。昔、父が「谷津子に、ホラ、アレを出しておやり、それからナニもまだ残っていただろ」と、久しぶりに両親の家に仕事の帰り立ち寄ったりすると、お茶うけが卓の上にいっぱい並ぶのでした。話を聞くより、私が楽しそうに食べるのを「気持ちいいね」と眺めるのです。父母と一緒にいる妹は虚弱体質で、食も細く頂けないものが多いので、私の食べぶりは、静かな家を急ににぎわしたのです。その妹はやはり、今は大変なアレルギーで食制限が極度になっています。しかし冷静な彼女は、実に見事に自分流の食生活をして、いささか食べ過ぎ人間の私達より健康的かもしれません。今の日本の食品については、問題が様々つきぬ様ですが……。

七年前まで一緒に子供ともども食卓を囲んでいた金子が、すっかり「食」にうるさい人の様になってしまいましたから、そのそばで肥って呑気そうにしていた私に、皆さん近ごろ仰るのです。「美味しいもの召し上がってたんでしょ」「お家でもなさったんですってね、奥様お倖せでしたね」「今、お食事どうなさってるの?」……金子はたしかにお料理が好きでした。食材を見ると手にとらないではいられなかった様です。多勢の人と一緒に舞台やテレビの仕事を終わって帰宅すると、ひょっと勝手もとに何か見つける。「おい、これどうするの? ちょっと洗えよ。バターと、あ、この間のチーズがまだあったね」と、そのままの服装で始めてしまうのです。それが気分転換になると申しておりました。ところが近ごろの私、外から帰るとそのまま台所に入り、冷蔵庫をのぞき、いつの間にか自分独りのための夜食づくりに結構手間かけて、ちょっと食卓をにぎやかにするのです。そして着更えて、新聞を開き、テレビをつけて――。何だか似て来ちゃったかしら。『おい、味がてんで違うよ!』ですって。


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