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●山頂から積雪の末端までを一気に滑り降りる。板を脱ぎ、パンパンと打ち合わせて板に付着した腐れ雪を払い落とす。そんな時に、足下に雪よりもまぶしく萌える蕗ノ薹を発見すると、思わず「おうっ」と小さく声を発して微笑んだりする。〈春〉との再会の瞬間だ。条件が厳しくとも、スキーは冬の盛りの山が一番――と主張する私だけど、雪質の悪さと引き換えにのんびりと、しかもこんな出会いに胸をときめかしたりするから、春山のひと滑りもまた捨て難い。ブーツを緩め、板をザックにセットして背負い、もちろんビニール袋も用意して……暫しの林道歩きはお土産用の蕗ノ薹摘みの楽しいひとときでもある。土地土地で時期がバラつくと思うが、私があの微笑ましいやつらと出会うのは、いわゆるゴールデン・ウィークの前後が常だ。

▲まずは蕗ノ薹の天ぷら。翌朝は天ぷらの残りをひとつ、味噌汁に浮かせて愉しむ。それから、湯通しした蕗ノ薹をトントンと微塵に切って、蕗味噌づくりに勤しむ。いや、たまには自分でつくるが、大抵は山里の家でご馳走になったり、山仲間が手づくりのやつを山行時にいただく。密閉容器入りのそれを「どうぞ」と出されたら、掌や、アルミ食器や、密閉容器の蓋に受けていただく。それぞれの味わいが微妙に違う。「こんな苦いやつを『美味い』と感じたりしてよいのだろうか」なんて自問しつつ、「やっぱりいいね、愉しいな」と杯の合間合間に箸を動かす。

■蕗味噌は色・かたち――即ち見た目がイマイチどうも……。戸外はともかく、家庭では器の選択と盛り付けに気を配りたい。生のままをひとつか半分飾ってやると気分がいい。


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