.



.
.

●わしら山賊にとっては、〈タケノコ〉と言えば即〈根曲がり竹(チシマ笹)の子〉を意味する。雪国の笹薮に潜り、がさごそとやりながら(とか言ってもタケノコ採りが目的の薮漕ぎじゃないけれど)、この季節のクロスケの主食でもある根曲がり竹の子を掠め取る。当然クロスケとにらみ合うことも日常……いや山中茶飯となる。彼奴らがそうするように、わしらもとったタケノコをその場で生のままばりばり・むしゃむしゃと齧ったりする。到底グルメな風景ではないが、こんな食べ方が実は一番うまい。

▲笹の葉から転げ落ちる露滴を舌の先で掬い嘗める。笹の枝先につんつん伸びた芯葉をひょいと引き抜き、木枯らし紋次郎よろしく口に衡える。柔らかく微かに薫り微かに甘く、うまいのだ。笹の葉に含まれるクロロフィルが口中を殺菌さわやかにしてくれる。これも通常グルメ範疇には数え得ぬが、カスミ食う仙人にとっては最高の馳走の部類だろう。笹薮の中であがいている最中にもちろんそんな余裕はないけれど、さらさらと、たとえば朝もやのもとで、山毛欅や樺の下生えの笹の中に付けられた快適な小径をたどる時など、(それがもう習慣になっていて)無意識のうちに芯葉に手が伸びている。ミヤコ笹・チマキ笹・チシマ笹……その他なんでもよろしい。

■わしはまだ出交したことがないのだが、笹の海全体が一斉に開花結実することもあるらしい。笹の実は米粒みたいなものだと思うから、是非とも一度は食べてみたい。蛇足をもうひとつ――笹葉を専らの食料とするジャイアントパンダという動物のウンチは、いい匂い(笹の薫り)がして、全然ウンチ臭くなんかないんだってさー。


.
.

Copyright (C) 2002-2003 idea.co. All rights reserved.