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北フランスのノルマンディー地方といえば、映画「史上最大の作戦」を思い出す人も多いだろう。一九四四年、連合国軍が上陸した海岸は、観光客が絶えない場所になっている。

近くの町ル・アーブルは、そのものずばり「港」を意味し、現在も商船の出入りが多い。しかしノルマンディー上陸記念館からほどよく離れているので、静かな町となっている(写真)。




市内の八百屋やスーパーを覗くと、様々なリンゴが並んでいるのに気づく。ある店で数えてみたら、七種類もあった。赤、淡緑、青、赤と青のまだら、といった具合で、にぎやかな店先である。

一個から買える秤売りだ。またビニール袋入りの徳用パックもあるが、その大きさたるや、枕ほどもあり、二十個ほど入っている。すべてここの特産である。日に一個のリンゴで医者知らず、という言葉があるが、ノルマンディーでは医者が少ないであろうか。

日本でいえば、青森辺りにあたるのがこの地方だが、少し違うのは、リンゴを利用した、世界的に有名な品々があることだ。三つほど挙げてみたい。

まずは、ポークのノルマンディー風という料理がある。ポークのオーブン焼きに、焼きリンゴが添えられているのが特徴で、これをノルマンディー風という。

ポークの味付けには、リンゴでつくられたブランデー、カルヴァドスを使う。ノルマンディー地方のカルヴァドス地域で生産されたものだけ、これを名乗ることができる。

ぶどうから普通のブランデー、コニャックなどができるわけだが、リンゴのふんわりとした香りがするブランデーも、食後酒として捨てがたい。

フランスでは、カルヴァドスを食中酒として飲むこともある。肉料理の前にちびりとやり、食欲を増進させるのだ。胃に通路の穴を広く開けようというわけで、この時のカルヴァドスは「ノルマンディーの穴」とよぶ。




さて、デザートとして知られるものに、リンゴのタルトがある(写真)。ル・アーブルの喫茶店で出てきたものには、リンゴがぎっちりのっていた。タルトの生地よりも、リンゴを食べたという感じだ。どのお菓子屋を覗いても、これを置いてない店はない。さっぱりした甘味が売りもので、家庭料理としても人気があるという。

「艶よく焼くには、上にかけるソースがミソよ。我が家では、卵黄1、砂糖大匙2、ミルク大匙2の割合でいつもつくるの」と、フランス人ガイドは話してくれた。

気候と風土が土地の食物をつくる。しかし、それだけではない。その恵みをどう活かすか、という人間の知恵も加えられるべきであろう。



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