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こんにゃくは知っていても、こんにゃくいもを見たことがある人は少ない。食品は馴染み深くても、その材料がどんな姿をしているかは、意外に知らないものだ。同じことが、カカオとチョコレートにもいえる。

通称“スパイスの島”グレナダへ、紙面上の旅をしてみよう。熱帯雨林で覆われたこの島に来れば、台所にあるスパイスは大抵見つかると言われている。

中でもナツメグ(写真の小さい実)は、世界の三分の一を生産し、最大の輸出品になっている。その他、シナモン(最左は葉)、月桂樹(中央の葉)、そして丁子が有名だ。みやげ物屋が並ぶ市内を歩くと、籠に入った可愛らしいスパイス詰め合わせを売っていて、その芳香は洋服までが匂うくらいに強い。

市内からバスに乗ってスパイス工場へ見学に行く。バスは「伊豆の踊子」に出てくるようなボンネットバスで、窓ガラスがない。

だから、走り抜ける森の様子がよくわかる。谷の深いところで、ぶらさがっているのはアボガドやパパイヤだ。熟れてくると野生の猿が失敬していくので、全部は収穫できない。レモンやコーヒーの木もあれば、平地ではプランテーションという農園が広がり、バナナが栽培されている。




市内から三十分ほどで、バスは木造のスパイス工場に到着した(写真)。昔の兵舎もしくは小学校のような佇まいだ。工場とはいえ、収穫したスパイス類を乾燥するのが主な作業で、近代的な機械はない。

カカオは同名の樹の実で、小玉スイカくらいの大きさがあった。五年から八年で実がなり、年に二回収穫できる。実を二つに割ると、ポヤポヤした毛に包まれた種が入っていて、これがココアやチョコレートの原料になる。

種はころっとしていて、ビワの種にそっくりだ。種を発酵させてから焼き、殻を除く。残った粉末がココアの原料になるが、半分は脂肪分なので部分的にこれを取り除いて完成となる。
十四世紀から十五世紀にかけて、メキシコに大帝国を築いたアステカ人は、カカオを珍重し、粉末でつくったココア飲料は貴族階級だけが飲んだ。スペイン人がヨーロッパにカカオを運んだのは、十六世紀に入ってからだった。

一四九八年、コロンブスも第三航海でこの島に近づいたが、上陸することはなかった。当時は南米本土から移民してきた人々が住んでいたという。その後スペイン人が入植し、本国の市と同名の名をこの島につけている。
人口およそ九万人だが、十一月から一月の初冬になると、観光客で人口がふくれあがる。植物という天然資源に恵まれ、人々もおだやかな島だが、失業率が高い。マリファナなどのドラッグ密売に手を出す若者が増えた。これ以上「スパイス」が効き過ぎないよう願いたいものである。


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