インドというと日本の皆さんは何を連想しますか? 象、ガンジス河、ヨーガ、カレーライス、バナナの葉、海などではないでしょうか。

四千年の歴史を持つインドでは昔から食文化も進んでいて、季節、材料、体調などを考えた食事を大切にしてきました。

どこの国にも食文化がありますが、それはその土地で出来たものの組み合わせが基本となります。私が二八年前に日本に来た時に一番感じたのが、日本食とインド食は似ているということです。それは、季節と旬のものにこだわっていることと、スパイスを使っていることです。

例えば日本料理では、山椒、三ツ葉、しその葉などを入れることでその料理の味と香りを高めています。

インド料理でも同じことがいえます。ただ、インド料理では沢山の種類のスパイスを使います。インドの医学「アーユルヴェーダ」では、スパイスは薬のもとで、毎日食べると病気の予防になるといわれています。

日本では、インド料理に使われているスパイスはすべて辛いと思われていますが、唐辛子や黒こしょう以外は辛くはありません。唐辛子だけを減らせば子供からお年寄りまで、辛いのが苦手な方もカレーを食べることができます。また、スパイスにはそれぞれに効果があり、消化を助け、冷え性などに効果をもたらすスパイス料理は体にも良いといわれます。たとえば、スパイスのターメリック、クローブ、にんにくなどには殺菌効果があり、クミン、コリアンダー、生姜には消化を助ける効果があります。また、スパイスには野菜や果物と同じく、体を温める効果や、冷やす効果もあります。季節の野菜をスパイスと組み合わせて料理を作ることが大切です。

インドは日本よりも九倍も広い国ですから当然、東、西、南、北で食べ物は違ってきます。南インドは一年中暑いのですが、北インドは四季があり、冬は雪が降るところもあり寒くなります。インド料理といえばカレーと思う人が多いようですが、一口にカレーと言っても地方によって全く違います。

例えば、油ひとつにしても、南ではココナツ油、西ではピーナッツ油、東ではからしの油、北ではからしやごま油を使います。使う油が違いますから味は全く違ってきます。また、南インドは熱帯ですから、バナナ、ココナツなどの野菜や果物を使います。そして、主食はお米です。北インドは寒いですからカリフラワー、いちご、りんごなど冬の野菜や果物を使い小麦粉を主食とします。東インドでは魚が中心となりお米が主食です。ですから、広いインドでは色々な食材を手に入れることができます。

インドではヴェジタリアンが多く、肉、魚、卵等を全く食べません。たんぱく質は豆からとり、乳製品をたくさん食べます。また、肉を食べる人たち もラムやチキンを食べることが多く、ポークやビーフは宗教の関係から食べる人と食べない人がいます。

東、西、南インドは海に面していますから、えび、まなかつお、かに、いか、貝類など海の幸を沢山食べます。北の方は川魚を食べます。それでも、日本人と比べるとインド人は肉や魚を食べる回数が少なく、週に二、三回しか食べません。

インドでは、それぞれの家で味が違います。例えば日本でも皆さんの家の味噌汁の味が違いますね? その家の味は、作り方、味付け、使う材料や調味料で決まるものです。カレーも同じです。例えば、同じ材料を使ってもスパイスの分量や作り方で全く違う味になります。南のカレーは水分が多く、北の方のはこってりとしています。辛さも様々で、その家や地方によって違ってきます。また、インドの人々が、三食カレーライスだけを食べていると思っている方が多いと思いますが、インド料理にも、おやつ、おつまみ、揚げ物、煮物などいろいろあります。インドでも食事を大切に考えますので、食材のバランスと味付けを良く考えて作ります。食事は一、二種類のカレー、野菜炒め、ご飯またはパン、サラダ、ヨーグルト、漬物などが出ます。食後には、乳製品からできた甘いデザートとスパイスを入れた紅茶が出ます。家にお客さんを招くことが多いので、おもてなしの時は料理の数も多くなり、色々なナッツなど特別な材料を使います。いい食事は健康のもとなのです。

昔はスパイスが日本ではほとんど手に入らなかったのですが、最近はスーパーでも買えます。また、雑誌やテレビでもスパイスを使った料理を紹介しています。日本の方はカレーが大好きですから、いろんなスパイスを使って自分好みのカレーを作ればいいと思います。是非ヘルシーなスパイス料理を召し上がってください。

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ミラ・メータ Mira Mehta
インド家庭料理研究家。ボンベイ出身。ボンベイ大学で化学を専攻。卒業後、料理学校で料理、テーブルセッティングを学ぶ。1974年ご主人の仕事の関係で来日。インドの素顔をもっと知ってほしい、インドでふだん食べているものを食べてほしいとの願いから、1984年に東京・南青山にインド家庭料理の店「ビンディ」をご主人と開店。カルチャーセンターなどでレクチャーを行う一方、テレビなどにも出演。インド文化の紹介に努めている。著書に「はじめてのインド料理」「もっと食べたいインド料理」「インド、カレーの旅」(文化出版局刊)がある。