●黄金の秋とロシア料理

2002年9月10日、第16次日本ロシア料理店協会ロシアレストラン視察団一行24名は、ロシア連邦の首都モスクワを目指し昼下がりの太陽を追って新東京国際空港を飛び立ちました。薄日射すシェレメチェボ国際空港に現地時間午後5時着陸。飛行時間10時間の内ユーラシア大陸上空八時間半はロシア連邦の空。ロシアは広い。専用バスはレニングラード街道を一路モスクワの市街地へ。6車線の道を照らす街灯の黄色い光。ショーウインドウの明るい電光。きらめく多彩な色のネオン広告。ここ数年モスクワの街の変わったことといえば、夜が際立って明るくなりました。

クレムリン、赤の広場に面した連邦最大6000人収容のロシアホテルに投宿。チェックインの後一行連れ立ってホテルのすぐそばのレストラン「キタイゴーロド・スチェナー=中華街の城壁」で夕食。

中華街でもれっきとしたロシア料理レストラン。

◆《サラダ》鮭のウス切り、大根、スイートコーン、ハム、人参とマヨネーズ。 
◆《ジュリアン》茸とサワークリームの天火焼 ◆鴨のヒレの焼肉、さくらんぼの
ソース、マッシュポテト、トマト、カリフラワー添え。
◆アップルパイ、コーヒー、パン、ウォトカ、ワイン

日本と較べると格段に涼しい夜風が吹きわたり、ロシアの第一夜はロシア民謡に迎えられて賑やかに更けていきました。時差6時間、初日は30時間の長い一日でした。
セメノフ民芸品工房食堂にて


●古都ウラジミール、スズダリヘ

翌11日夕方、モスクワ・クールスカヤ駅から東へ190キロの古都ウラジミールへ。時刻表によれば、この駅からシベリア鉄道経由ウラジオストク、バム鉄道コムソモーリスク・ナ・アムーレ行きの列車も出ているようです。目の前の鉄路が日本海沿岸の都市まで続いているのかといたく感動しました。ロシアにも電車特急の時代が訪れていました。2時間30分、森と原野と小さな村落がちらちら見える、夕暮れ迫るロシアの大地を東へひたすら駆け抜けました。ロシアは広い。

翌12日、快晴のウラジミール。午前中12世紀建立のポクロフ・ナ・ネリル教会へ。バスから降りて2キロ、紺碧の空に高々と聳えたつ白樺林の列を左に見、地平線まで広がる原野をそぞろ歩きました。森も原野も黄金色に輝きわたり、この時期ロシアは「黄金の秋」真只中でした。ロシア建築の白鳥といわれる白亜の愛らしい教会は、20年前には小さな湖の中に建っていましたが、今回は渇水期のせいか歩いて辿りつき、お祈りのロウソクを捧げました。

午後はウラジミールから35キロ北のスズダリへ。途中はどこまでも地平線、50近くの修道院や教会はいずれも13世紀前後の建立といわれ、街中が名所旧跡の古都。たくさんの鐘を一度に打ち鳴らすイベントが毎日行われ、天空の彼方に消えてゆく音楽のような鐘の音に一同聞きほれました。

昼食はレストラン「トラクチル」、ここの女性コック長はモスクワの料理コンテストでグランプリを獲った名コック。

◆燻製蝶鮫とバターのオープンサンド ◆薄肉と野菜盛合せサラダ ◆つぼ入りペリメニ(ロシア餃子) ◆シー、キャベツ他数種野菜入りのスープ ◆牛肉とジャガイモのつぼ焼料理 ◆皇帝のブリヌイ(クレープ)イクラ入り ◆黒パン、コーヒー、ウォトカ、ワイン

荒削りな家庭料理の風格も併せもった楽しいテーブル。コック長に感謝。

「トラクチル」のコック長と筆者


●ウラジミールからボルガ川へひた走る

食後ウラジミールへ戻り、日も高い午後5時、今回の視察団の目的地ニージニー・ノブゴロドヘ我々の専用バスは東に向かって、ひたすら地平線から地平線への直線道路を駆け続けることになりました。西陽を背に受けて走るため道路に映るバスの影が次第に長く伸び、やがてその影が夕闇に飲み込まれていきました。とっぷりと陽が暮れた午後8時、次第に行き交う車のライトが増えトロリーバスが姿を見せ、ずらりと並び出した街路灯と両側に連なる大型団地で大都会への接近が感じられました。午後九時ニージニーノブゴロド四星ホテル「ボルナ=波」に到着。予想を越えた大都市で人口150万。ロシア最大の自動車工場「ボルガ」の所在地。

夕食はさすがボルガ川の街だけあって魚料理でした。ホテルのレストラン「チャイカ」。

◆鰊と生野菜のサラダ「ロシア風」 ◆スズキの詰物。特製茸ソース、ポテト、グリンピース、トマト、花キャベツ、トマト ◆デザート。「プティツィー・マラコー」(原文のまま)チョコレート製のケーキ ◆パン、コーヒー、ウォトカ、ワイン

今回のロシア料理は、一見フランスを始め外国料理を連想させるものと、伝統のロシア料理との絶妙な組合せで、ともかく一行の日本人旅行者の味覚を楽しませてくれました。今回の視察先がボルガ川周辺のせいもありましたが、この後モスクワ、サンクト・ペテルブルグでも魚、海老料理が多く、ロシアでのこの傾向は日本のロシア料理店業界にとっても、将来への指針として取り組んでみるテーマであると思いました。

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