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いささか季節外れの話となってしまうのだが、今シーズンほど山菜を堪能したのは初めてである。先ずは、京都の物集女(もずめ)というところから、素晴らしい筍が届けられた。香りが佳くて、適度のえぐ味が感じられるおいしさで、更にしっとりとした優しい食感が楽しめるという、まさに三拍子の揃った感動的な筍であった。

早速、大鍋にたっぷりと水を張り、有機栽培低農薬というふれこみの糠を用いて茹でる。京都の筍というのは、粘土質の土壌で育ったせいか、色も通常の筍よりやや白いような気がする。羅臼の出し昆布で慎重に出汁をとり、土佐の枯れ本節で追い鰹の出汁という、贅沢を試みる。この出汁に淡口醤油、味醂、酒で味を整え、煮付ける。味が筍に染み込んだのを見計らって、春先に頂いた三陸の天然ワカメをたっぷり加えて火を止める。全体のバランスを考えて女房殿の焼き上げた器に盛り込むまではよかったが、トッピングに山椒の若葉をと思って慌てて庭に出てみると、季節というものは本当に有難いもので、まことに美しい新芽が三センチばかり顔を出している。これで、今年のお初の筍料理は殊の外おいしく味わうことが出来た。あとは、女房殿の作ってくれた炊き込み御飯に、筍の姫皮と卵を落としたすまし汁。庭の蕗と合わせた煮付けは、翌日に楽しんだ。

という次第で、春の幸による至福の時を過ごしていたら、札幌の狸小路市場の八百屋さん(井上商店)から、行者ニンニク、谷地蕗(やちぶき)、片栗菜、小豆菜等々が届いた。行者ニンニクは、さっと湯通しをして韓国風にコチュ醤と和辛子を合わせたもので和えてみた。谷地蕗は、北海道のゴルフ場の沼の辺りなどでみかける、黄色い花を咲かせるずんぐりした蕗である。



Kubota Tamami

少々苦いのだが、ようやく春が来たなーという感じがする、食後に爽やかさを覚える貴重な山菜だ。煮浸しにしてもよし、茹でて水でしめた後よく絞り、醤油と鰹節で頂くのもいい。 北海道からの山の幸を、浸しにしたり白和えにしたり、はたまたてんぷらで楽しみ何とか食べ終えた頃、「スローフードな人生」を書き、日本のスローフード運動をしている方々から人気を博している島村菜津さんがやって来て(実は、彼女は女房殿の後輩で、我が家のすぐ傍に住んでいる。だから、おいしいものが手に入ると、声をかける)、「山菜だったら『山菜屋どっとこむ』というのが山形にあって、そこはインターネットで検索すると、本当にていねいに送ってくれるらしいよ! わたしも先週山形のスローフード協会の仕事で行ってたんだけど、たらの芽がおいしかったー。タローさん達も、一度ネットで注文してみたら? わたしももう一度きちんと食べたいな! ネッ、やってみようよ!」

彼女は興奮すると、自分のことしか考えずに一気に喋りまくる癖がある。そこで、ネットで、山菜屋どっとこむ、を検索してみると旬の山菜がどっと出て来た。山菜は食べたばかりではあったが、色々と食べ方のレシピコーナーもあり、それではというのでまたぞろ注文をしてしまうのである。取り敢えず、何がおいしいのか分からないので、おまかせセットを注文すると、即座に注文済みのメールが届き、数日後に発送予定日の知らせが来る。そして発送済みの知らせが届き、翌日に山の幸が丁寧に梱包され届いた。

セットは6,000円で送料が700円。開いてみると、赤こごみ、あいこ、しどけ、やまうど、わらび、たらの芽、赤みず、が入っており、それぞれの料理法もしっかりと入れられていた。これならば、山菜は初めてという方だって、問題ないだろう。僕も、しどけはてんぷらかごま和えでしか味わったことがなかったので、山菜屋のレシピ通りにくるみを購入して来て作ってみた。送られて来たレシピを原文のまま記すと、

1、しどけは水洗いし、葉先の黒くなっているところをきれいに取り除きます。
2、大きめの鍋にお湯を沸かし、しどけを茹でます。
3、ざるにあげ、水で冷やしたあとに水気を搾って食べ易い大きさに切ります。
4、すり鉢でくるみをすり、砂糖としょうゆで好みの味に仕上げます。
5、すり鉢の中に切ったしどけを入れて和えます。

これが、レシピ。僕はくるみ醤油に味醂を少し加え味わった。それぞれが、それはそれはおいしかったので、島村に電話を入れてみたら、何とイタリアに行ったとか。彼女には、そんな一面もあるのである。残念ながら、山菜の旬は、一瞬に遠ざかってしまうから、皆様も山菜だけは心しておかれた方が懸命だ。