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ここ数年、スローフード運動が盛んになるに連れ、一般消費者の食の安全に対する意識もかなり高まって来たようだ。インターネットのホームページにも、多種多様のサイトが出現し、生産者や流通のインフォメーションが多く見られるようになった。また、大手の企業も、安全な食品のネットワークを構成し、インターネットによるビジネスを始めている。こうした傾向は、21世紀の日本の食のスタイルを根本から変えることにつながるから、僕としては大いに賛成である。しかも、インターネットで気軽に安心の出来る食べものが手に入るのならば、これは嬉しい話である。

ということで、僕も何回となく、この新しいビジネスに申し込み、安全でおいしかろう筈の食べものを注文している。が、今のところ、百パーセント満足というわけにはいかない。いや、心から満足したものは2割程度の確率でしかない。

勿論、安全という意味では、農薬を全く使わないとか、もし使ったとしても極めて微量に押え、収穫の前には絶対に散布しないということだから、これは安心して食べられる。が、正直なところ、今まで僕が食べた無農薬野菜のほとんどは、はっきり言っておいしくないのだ。確かに、シャキッとしていて歯ざわりは抜群だ。だから、レタスとかサニーレタスのようなサラダに用いる生食用の野菜は、未だ何とかいける。しかし、どうしたものか味が淡白過ぎるのである。野菜独特の、甘味や爽やかな青臭さがないのはどうしてなのだろうか。

我が家でも、畳を2枚直列にした程度の菜園があり、サニーレタス、ロメインレタス、春菊、コリアンダーなどを、僅かではあるが作っている。当然のことながら、無農薬での栽培だ。1坪足らずの家庭菜園にしても、ちょっと目を離すと、1夜にしてサラダ菜がレース状になってしまう。この憎っくき害虫は、昼間だけではないのだ。昼は、青虫とその系列の虫達、夜は夜で夜盗虫という輩が徘徊し、ようよう育った野菜をあっという間に食べてしまう。虫共のお余りを頂いていると申した方が正しいのかも知れない。

だが、手前味噌になってしまうが、虫共とのバトルに何とか打ち勝って収穫した野菜の、何とおいしいことか。サラダ菜にしても、小松菜のような菜っ葉でさえ、インターネットで取り寄せたものよりはるかに旨い。それと、家で採れたものは、野菜の大きさが食べごろのものを収穫するから、柔らかい。無論、昨今流行の『ヤワラカーイ』というニュアンスとは一線を画したいが…。と同時に、我が菜園の野菜だけは、何が何でも安心して食べられる。気になることと言えば、時折愛犬達が妙な行動をしていること位だろうか。



Kubota Tamami


我が家の愛おしい菜園に、最近強力な味方を得た、ニームという木から抽出したという液体だ。インドでは、これを原料に歯磨き粉を作るそうだ。何と、ガンジーは、ニームの木の下で説教をしたとか。とにかく、この木の下は虫が来ないそうである。ニームオイルを時折散布してやると、仄かな肥料になったり虫よけ効果が出たり、と、素晴らしい逸品だ。ただし、速効性はなく散布した後でも、虫共は悠然とサラダ菜を食べている。が、不思議なことにいつの間にか虫は去り、青菜共はすくすくと育っている。しかも野菜はおいしくなり無公害、こんな有り難いものは他にない。ただし、この霊験あらたかな魔法の液体は、かなり値の張る代物だ。実際の話、道楽だから用いることが出来るのである。

そこで代用に、木酢にどくだみの葉を入れたり、ニンニクや唐辛子を入れて発酵させた液体を作り、これを散布しようという作戦を、我が大本営を牛耳る女房殿が行おうとしているのだが、この秘薬が完成する前に秋が来てしまいそうな感じである。しかし、野菜を作り始めてから分かったことだが、身の回りには何と虫の多いことであろうか、改めて自然界の奥深さを痛感するのである。

と、自慢話ばかりしていても、到底我が家の菜園だけでは、胃袋を満たすわけにはいかない。近所の農家から比較的安全でおいしい野菜を購入し、後は生活クラブだとか色々と努力をされているお百姓さんから取り寄せる。また愚痴になってしまうけれど、もう少しおいしければなー。考えてみたら、僕が野菜を送って頂いている人達の大半が、脱サラ農家である。もう少し長い目で見守り、僭越ながら励ましつつ味の批評もしていこう。

固いレタスは、フライパンをチンチンに熱し、酒と出汁(鶏)と自家製ニョクマムで味を整えれば相当旨くなる。筋っぽい野菜は、裏ごししてスープにしよう。農薬や科学肥料が出来たのは、たかだか百年。昔の人は、虫と共存しながら、固い野菜をおいしく食べていたのだ。そう考えると、気分も楽しくなって来た。明日の休みは、草取りでもしよう。


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