写真:南米・イグアスの滝にて


早いもので、私たち夫婦が`食と自然aを求めて5大陸・32カ国を巡った旅から帰国してから3年も経ってしまい、本誌でのレポートも6回目となりました。

旅行中は「世界一周二人旅」という名のホームページ
http://homepage3.nifty.com/washyworld

を立ち上げ、行く先々で様々なレポートをアップしていったものですが、今や家族は長男の龍(2歳)を加えた三人となり、昨年はサイパンで上々の海外デビューを果たしたものの(2002年8月号)、長期旅行もままならなくなってしまいました。その代わりといっては何ですが、私たちの言葉を良く理解するようになって、当時のアルバム写真などをと〜っても楽しそうに開いては色々と質問をしてきます。

「これは何?」「ここはどこ?」終いには、「りゅう(自分の名前)、ここ行ったよ。これ食べたよ。おいしかったね。」と。「ここに行った時、君はまだ生まれてないよ。」と答えてやると、とても悲しそう。でも、「今度一緒に行こうね。」というと、顔がぱっと明るくなります。

そんな風に旅の記録を見直しているうちに、一つ面白いことに気づきました。それは、“その土地のローカルフードが一番旨い”という我々のポリシーに反して、実は結構“どっかからやってきたけど、とても美味しい”食事に出会っていたということです。今回のレポートは、そんな旅行先で出会った、“意外に美味しかった”外来食について紹介したいと思います。




今回の旅で初めてヨーロッパを訪れた二人。ヨーロッパの食事といえば何? イタリアではパスタ、フランスではパンとチーズにサラダ。スペインではパエリア。それなりに名物は押さえて満足度は大。しかし我々には大きな問題が立ちはだかっていた。それは値段。「ローカルフードを追求する旅」とは言ったものの、ヨーロッパ諸国の外食代の高さといったら、我々にとってはそれはそれは大変なもの! 日本で言う普通の食堂のようなところで定食を頼んでも一人あたり2000円はかかる。

おまけに消費税(10〜20%近い!)がついて、とどめにはチップまで取られる始末。1食数百円の、安くて美味しい屋台文化が発達した東南アジア諸国を体験済みの我々にとっては、どうにも納得がいかない。「高い金出せば美味いのはあたりまえじゃないか!」と毎日ぷりぷり。

そこで登場したのが、庶民の味方“トルコ料理”。日本で言う“シシカバブ”が代表的だが、本来の意味は(Kebab=焼き肉料理)だとか。
ルクセンブルクの町
ケバブプレート

我々の旅では、ルートの都合上行くことのできなかったトルコだったが、ベネルクス三国(オランダ・ベルギー・ルクセンブルク)では、町のいたるところで大きな肉塊(10〜20kg以上)を専用のロースターマシンで回しながら焼いている様子が見られた。焼くところをよおく見てみると、ドラムの周りに何重にも巻いた肉を、ぐるぐるとまわしながら、それを囲んだ赤外線ストーブのようなグリルであぶる。ジュージューと焼けた肉を、外側から大きな包丁でそぎ落として、肉片にしていくのだ。

焼けた肉を野菜と一緒に薄いパン生地(ピタパン)で包んで食べる。とにかく安い、安くて美味しい。その上、見ていて面白いと来たものだ。


ベネズエラというと、「それはどこですか?」という声が聞こえてきそうだ。正式名称はベネズエラ共和国。南アメリカ大陸の北部沿岸(ブラジルの上といえばわかりやすいか)に位置する国で、広さは日本のおよそ三倍。素晴らしい自然が自慢の国だ。南アメリカ最大のマラカイボ湖。全長二千キロの大河オリノコ川。そして我々の最大の目的地、世界一高い滝(その落差980m!)、“エンジェルフォール”。

その滝への旅は、正に“地球の秘境を探す旅”のハイライトだった。首都カラカスから長距離バスで10時間。更にそこから5人乗りのセスナでギアナ高地の上空を越えること1時間半。更に更にモーターボートで川を半日遡った末にジャングルの中を1時間歩いてやっとたどり着くことができたのだ。文明の地から2日がかりでたどりついた世界一の滝は、その信じられない高さ(下から見上げても、1本の滝が視界に入りきらない)もさることながら、その美しさに参った。1キロ近い頭上から降り注ぐ水は、細く二本に別れ、まるでパウダースノーのように、さらさらと落ちてくる。これほどまでに“美”あるいは“優雅”という言葉の当てはまるものは後にも先にもないだろう。

さて、秘境から文明のある町に帰ってきた私たちを、次に迎えてくれたのは、食文化によるタイムスリップだった。ベネズエラの食事といえば、スナックのようなものが一般的。トウモロコシの粉で作ったパンケーキのようなアレッパ、同じくトウモロコシの粉で作った皮に挽肉や豆をつつんだエンパナーダ、それにスープとサラダがつく程度。それはそれで、まあ美味いのではあるが、長旅で疲れた身にはどうも物足りない。いっぱい食べられて栄養もあり、それでいてお腹にやさしいヘルシーな食事なんかあるといいのだが?
そんなに都合の良い食べ物が… 実はあったのだ。それはスペイン料理! 

ベネズエラの歴史をひもとくと、15世紀末に、かのクリストファー=コロンブスがヨーロッパ人として初めて新大陸(つまり南米)に到達した時から、1845年に独立を果たすまで300年以上にもわたって、スペインの支配下にあった。殺戮や略奪の悲しい過去はさておき、庶民の食に関しても、今に至るまでその影響が色濃く残っている。前述したエンパナーダなども、メインの具は各地の特産物であっても、基本はラテン諸国共通だ。
アレッパ
巨大パエリア

スペイン料理の代表とくれば…? そう、パエリア! 秘境帰りで、旅の埃を思い切り落とした後は、近所の定食屋で本格的なシーフードパエリアを注文した。2人前を頼んだはずだが、期待を大きく上回って直径40センチもありそうな巨大な鉄鍋一杯に盛られたパエリアが運ばれてきた。正に、ジャーン! って感じで、大量の殻付きアサリ、エビ、タコ、名も知らない貝が多数に、フジツボまで(笑)。何と行っても日本人。久しぶりのお米がお腹にうれしい。キャンプ続きで飢え死に寸前だったはずの我々だったが、結局1/4量も残してしまった。大満足。



「二歳前の息子を連れて、二人でタイ旅行に行こうかな〜」と言ったら、友人たちにビックリされた。「え〜っ。タイって汚いんじゃないの? 危ないんじゃないの?」

この反応には、私の方がビックリ。みんなそんな風に考えているのか。東南アジア各国を旅した我々にとって、タイは特に清潔で安全な先進国というイメージなんだけど。ちょうど夫が海外出張中だった時、軽い気持ちで言ったのだけど、そんな反応が返ってくるとチャレンジしたくなるのが私の性格。

「よし、本当にやってみるか。」と、出張中の夫にメールで相談してみると「いいんじゃない?」とあっさりOK! そうそう、安心できる理由がもう一つあった。夫の両親が三年ほど前からタイに移住して年金生活を送っているのだ。夫の留守中に義父母の家に孫を連れていくなんて、何て親孝行な私。思い立ったが吉日、実行あるのみ。

「よく来てくれたわねえ。」空港で出迎えてくれた夫の両親は、真っ黒に日焼けしていて、服装もエスニックですっかりタイ人化していた。遠来の孫は、当然のVIP待遇。義父母の住むジョムジンビーチまでタクシーを使って一時間。なんと道をゾウが歩いているのを目撃! それも一頭でなく、何頭も。乗ゾウのできる施設が多いんだって。

近くの動物園で、改めてゾウとご対面。龍は大きなゾウが怖いらしい。係のお兄さんが一番ちっちゃな子象に乗せてくれたけど、完全に凍り付いていた。なんとトラにも触れる。これがタイのおおらかさ(いいかげんさ?)。



ココナッツジュースにニコ〜

ところで、肝心の料理の話。タイは通算五回目。基本はトムヤンクンを始めとしたスパイシーなおかずに麺類、それからチキンや魚の炭火焼きにナンプラー(魚醤)をたっぷりかけたものが常識と思っていた。それは、貧乏旅行で屋台飯&安食堂が中心だったため。しかし、今回は幼児同伴、義父母も一緒。珍しく
“屋根のある”まともなレストランに入った。ヤシの木陰、海風が吹き抜けるビーチに面した席に座り、刺激が少なそうなメニューを頼む。「カニのクリーム煮」が何とパイナップルを丸ごとくり抜いた器に入ってきた。ココナツジュースを頼んだら、子どもの頭より大きなヤシの実が丸ごと目の前にデーン! 

果物も豊富だ。ライチに毛がはえたようなランブータン、パインをとろーりと甘くしたようなジャックフルーツ、グレープフルーツよりひとまわり大きくてとびっきり美味な柑橘類、ソムオー。これなら安心して幼児も食べられる。でも、必ず付いてくるのが、チリパウダーとグラニュー糖をまぜた専用スパイス(笑)。西洋人向けのメニューのつもりなのだろうが、サラダもピラフもナンプラーがついてくる。

そういえば、西洋人のバックパッカーに「代表的なタイ料理って何?」と聞いたら「パンケーキだ」という笑える答えが返ってきたことを思い出した。同じ土地に行っても、訪れる人・時期によって、全然違うイメージになるんだなあ、と改めて気づいた。見たものも、食べたものも、今までとかなり違う、新鮮な旅だった。



これまで“その土地のものが一番旨い”をモットーに、行く先々でローカルフードを探求しました。食事こそが“ところ変われば品変わる”ものと確信していたのです。しかし最近になって、ハッ!と気がついたことがあります。それは“時が変われば…”“一緒に行く人が変われば…”という新事実です。息子のおかげで旅の行き先もスタイルも大きく変わりました。また同じ土地でも全然違う体験ができるということがわかったのは最高の収穫です。この夏には、更に家族がもう1名増えることになりました。彼(彼女)がまた、我々にどんな世界を見せてくれるか楽しみです。 

ご意見・ご感想をお寄せ下されば大変嬉しく思います。更なる新しい世界が広がることを祈りつつ。




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