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ここ数年、スローフード運動が盛んになるに連れ、一般消費者の食の安全に対する意識もかなり高まって来たようだ。インターネットのホームページにも、多種多様のサイトが出現し、生産者や流通のインフォメーションが多く見られるようになった。また、大手の企業も、安全な食品のネットワークを構成し、インターネットによるビジ先日、新潟県の安塚町(僕は、何で町にしたのだろうか、と、いぶかってしまったくらいの所である。村、と呼ぶ方が、素朴でいいのになー)というところへ、犬仲間と一泊の旅をした。もちろん、犬を七頭連れての泊まりである。ヨーロッパやアメリカなどは、かなりのホテルでもお金さえ支払えば犬も同室が出来る。が、悲しいかな日本は、その点では後進国である。旅館やホテルの殆どは、たとえ盲導犬であっても介助犬であっても、ストレートには泊れないのが常識である。

我々犬連れ十人がお世話になったのは、過疎の集落の廃校を、町が宿泊施設としてリニューアルした宿舎であった。だから、校庭も広々としており、おまけに天然芝という贅沢さである。体育館を改装したホールは、雨が落ちて来ても犬共は何の気兼ねもなく走り回れる。二段ベットの洋間は、当然のことながら教室を改造した部屋だ。どうやら、普段は都会の子供達を呼び、農業の体験学習などに使ったり、広いホールを活用しダンス合宿などに利用されているようだ。

この安塚の旧校宿舎は、田舎屋といい安塚のホームページに載っているから、是非一度利用されたらいかがだろうか。犬も基本的な服従訓練を受けていれば泊めてもらえるだろう。もう一つ、いやあと二つ素晴らしいことがある。一つは、事前に予約しておけば、手打ち蕎麦が味わえる。十割蕎麦や、地元特産の自然薯を加えた二八蕎麦が売りである。

そして真打ちは、安塚産の棚田の米を半年の間雪室の中で低温貯蔵したというコシヒカリの御飯である。僕は、今までにこんなにおいしい米を食べたのは初めてである。
よく、魚沼産のコシヒカリが最高といい、けっこうな価格のお米を何度も味わっているが、さほどの感動はなかった。

「やっぱり、魚沼のコシヒカリはおいしいねー」

という程度である。正直なはなし、十キロの米が一万円を超えてしまうと、おいしくて当たり前、という気分になってしまうのだ。さすがにデフレ傾向の昨今、キロ千円を超えるお米は相手にされないし存在はしないだろうが、ぎょうぎょうしく包装されたコシヒカリを、数年前かなりの金額で購入してしまったことがある。その時ばかりは、御飯を食べた後に、自分自身を相当に情けなく思ったことを思い出す。

この安塚、実は有名な魚沼の隣にあるのだ。魚沼よりやや山深いところにある為、棚田が多いようだ。そんな棚田で、久しぶりに螢の乱舞を見ることが出来た。昨今は、農薬の影響で螢はおろか、トンボや川魚も激減している。やはり、昔ながらの有機農法と狭い棚田が、おいしい米を育むものであろうか。

棚田のお米といえば、島根県の奥出雲の仁多米も疎かには出来ない。特に今摺米(いまずりまい)と命名された、籾のまま低温貯蔵され、市場に出される直前に、籾を落とし精米したものは仄かな甘味が何とも言えない。聞くところによると、完熟堆肥で栽培し天日で自然乾燥させているそうだ。だから、優しい甘味が味わえるのである。

昨今、スローフードという言葉が飛び交っているが、半世紀前の日本はどこへ行ってもスローフードだったのである。それが、日本経済の高度成長の波に押し流され、ゆったりとは出来なくなってしまったのである。米も、成長が早く収穫の多いものになり、除草剤、化学肥料、人工乾燥と、おいしい筈のお米を、わざわざ不味くして尚かつ有害なものにしてしまったのである。

宮城にも福島にも、その他日本全国津々浦々には、流通していないおいしいお米が沢山ある。その反面、アイデンティティーのはっきりしない米も相当ある。この辺りが問題だ。国の政策と、生産者と、消費者の関係。一つ言えることは、おいしい安全なお米を選択出来るのは、我々消費者なのである。



Kubota Tamami

今回は、仁多に代表される標高の高い棚田米のことばかりになってしまったが、おいしいお米は日本人の活力の源であることは、間違いのない事実。消費者が安心して食べられ、安くておいしいお米が増えれば、必ずや日本は元気を取り戻す、と、僕は確信している。ネスを始めている。こうした傾向は、21世紀の日本の食のスタイルを根本から変えることにつながるから、僕としては大いに賛成である。しかも、インターネットで気軽に安心の出来る食べものが手に入るのならば、これは嬉しい話である。

ということで、僕も何回となく、この新しいビジネスに申し込み、安全でおいしかろう筈の食べものを注文している。が、今のところ、百パーセント満足というわけにはいかない。いや、心から満足したものは2割程度の確率でしかない。

勿論、安全という意味では、農薬を全く使わないとか、もし使ったとしても極めて微量に押え、収穫の前には絶対に散布しないということだから、これは安心して食べられる。が、正直なところ、今まで僕が食べた無農薬野菜のほとんどは、はっきり言っておいしくないのだ。確かに、シャキッとしていて歯ざわりは抜群だ。だから、レタスとかサニーレタスのようなサラダに用いる生食用の野菜は、未だ何とかいける。しかし、どうしたものか味が淡白過ぎるのである。野菜独特の、甘味や爽やかな青臭さがないのはどうしてなのだろうか。

我が家でも、畳を2枚直列にした程度の菜園があり、サニーレタス、ロメインレタス、春菊、コリアンダーなどを、僅かではあるが作っている。当然のことながら、無農薬での栽培だ。1坪足らずの家庭菜園にしても、ちょっと目を離すと、一夜にしてサラダ菜がレース状になってしまう。この憎っくき害虫は、昼間だけではないのだ。昼は、青虫とその系列の虫達、夜は夜で夜盗虫という輩が徘徊し、ようよう育った野菜をあっという間に食べてしまう。虫共のお余りを頂いていると申した方が正しいのかも知れない。

だが、手前味噌になってしまうが、虫共とのバトルに何とか打ち勝って収穫した野菜の、何とおいしいことか。サラダ菜にしても、小松菜のような菜っ葉でさえ、インターネットで取り寄せたものよりはるかに旨い。それと、家で採れたものは、野菜の大きさが食べごろのものを収穫するから、柔らかい。無論、昨今流行の『ヤワラカーイ』というニュアンスとは一線を画したいが…。と同時に、我が菜園の野菜だけは、何が何でも安心して食べられる。気になることと言えば、時折愛犬達が妙な行動をしていること位だろうか。