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毎年のことだが正月を過ごした後、そろそろ本格的に仕事に戻らねばと決意するのだが、この頃の体の重さは到底自分のものではないような感じである。

おそらく、このことは皆さんも感じておられるのではあるまいか。ま、年末から正月にかけて、久し振りにゆったりと寛ぐことの出来る時期である。テレビの前に陣取り、朝から酒をちびちびと飲み、普段の生活にはないような御馳走が目の前に並んでいるわけだ。いい気分で酒を飲み、腹が一杯になると眠気が襲ってくる。部屋の中は、ぬくぬくとしていて申し分ない。当然のことのように、しばしの間は白川夜船。となると、極度の運動不足と多食が重なり、一週間くらいで簡単に二キロくらいは体重が増えてしまう。正月休みが終わり年始まわりに出かける為、玄関で靴の紐を結ぼうと前屈みになる、とどうだろう、ベルトの下には明らかに分厚い異物を確認できる。

腹をさすりながら、出るのはため息ばかりである。ちょいとした階段の昇り降りですら、情けないことに息が上がってしまう有り様だ。

新年を迎えて、松が明ける日というのは、七日つまり七草粥を食べる日なのである。
僕は、この日本の古くからの習慣というのは、まことによく出来ているものと、ほとほと感心せざるを得ない。多分、昔の人もテレビはないとしても、結構のんべんだらりとやっていたに違いない。その、正月のぐうたら気分を、せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ、という春の七草を粥に入れて食べることによって、一新したのではないかと思う。


Kubota Tamami


僕は、東京のはずれの練馬区に住んでいるが、七草の日に家の周りを散歩すれば、何とか自然の中で五草は見つけられる。簡単なのは、なずなと呼ばれている『はこべら』だろう。次に見つかりやすいのが、ごぎょうではあるまいか。これは『母子草』であり、夏の間は、いつの間にかプランターに生え、植えた花の邪魔をして手を焼くことがある。しかし、姿勢のよい姿に黄色い渋い花を咲かせるので、小さな一輪挿しに活けると中々よい。

セリは、池の近くのわき水があるところや、ちょっと足を伸ばして田んぼのあぜ道の辺りを探すとすぐに見つかる。ほとけのざというのが、少々厄介だ。というのは、実際に佛の座という赤っぽい葉っぱの草がある。だが、これは食べられない。昔の人がほとけのざと呼んでいた草は『コオニタビラコ』といって、タンポポによく似た野草である。これも、田の付近には結構自生している。この草は、さっと湯通しをして胡麻和えや白和えにすると、かなりおいしい。韓国でも、確かキムチにして食べていた。

中々自然界で見つからないのが、すずなとすずしろであろう。つまり、カブとダイコンである。全くないとは言わないが、見つけるのにはかなり時間がかかるだろう。とは申せ、デパ地下やスーパーでも、カブは葉つきのものが手に入るが、ダイコンは結構難しいかも知れない。ただ、最近はダイコンの摘み菜が売られていることもあるから、これを見つけたら買っておくとよい。味噌汁に入れても旨いし、塩揉みにして細切り昆布と合わせると、最高の漬け物が出来るだろう。

ともあれ、七草を手に入れて、それぞれを細かく刻んで粥に加える。ただし、はこべらは簡単に見つかるからといって多く入れぬ方がいいだろう。土臭くて閉口する。ダイコンとかカブの葉、そしてセリを多めに入れると、食べ疲れた胃を洗い流してくれるような爽快な気持ちとなる。本来の正月(旧正月)は通年約一月くらい遅い。だとすると、少しではあるが日が長くなっているので、野の七草も見つけやすいのかも知れない。今年の七草の日は、閏月があるから二十八日といささか早い。でも、旧暦に合わせ七草粥を食するのも一興ではあるまいか。


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