正月を過ぎて、二月に入ると寒さのピークがやってくる。日は段々と長くなり、梅の花もちらほらとほころび始めるというのに寒い。何だか雪も、二月が一番多いような気がしてならない。もちろん、東京での話である。
こうした寒い日には、何と申しても鍋料理に勝るものはない。我が家でよくやる鍋のベストファイブをご紹介してみよう。
第一位 豚肉のしゃぶしゃぶ。これは、奥方が向田邦子さんに教わったもので、昆布だしにたっぷりと上等な日本酒を入れる。煮立ったところに、ほうれん草をひと掴み入れ豚肉を乗せる。豚肉に火が通ったところで、ほうれん草と豚肉をポン酢で味わう。あっさりとしているから、いくらでも食べられる鍋だ。我が家では、向田鍋と呼ばせて頂いている。
第二位 ラム肉の刷羊肉(サオヤンロウ)。これは、父が大陸を放浪していた時に覚えてきた料理で、ラムの薄切り肉をしゃぶしゃぶのようにして味わう。もっとも、これがしゃぶしゃぶの原点で、羊を嫌う日本人が牛肉にアレンジしてしまったものである。しかし、付けるタレを工夫すれば、羊肉はあっさりとしているから、牛の数倍は旨いと僕は思っている。ピーナッツやクルミといった木の実を五、六種類ミキサーで粉にし、リンゴ、タマネギ、ニンニク、醤油、酒を加えとろとろと煮込む、弱火で時間をかけペースト状に仕上げ、これにしゃぶしゃぶ肉を浸して味わう。薬味に、ネギ、大根おろし、香菜をあしらい堪能する。体の芯から温まる、アジアの代表的な鍋料理ではあるまいか。
第三位 やはり湯豆腐が、我が家でも定番メニューの上位をしめる。何の変哲もない料理だが、しみじみとおいしい。父は、毎朝湯豆腐を食べていたのだが、息子の僕としては正直うんざりとしていた。
「何で、毎日豆腐ばかり好んで食べるのだろう。他においしいものは沢山あるのに」と思っていたのだが、数年前から父の嗜好の様が、何となく理解出来るようになって来た。最近では、朝食は湯豆腐がよいのではないかと、僕も想うようになって来た。
ともあれ、家のすぐそばに素晴らしい豆腐屋さんがある。昭和の初期に創業した店で、現在の主は三代目となるのだが、意欲的でいい意味での野心もある好青年だ。数年前に、藻塩を使った豆腐を始めたのだが、これが優しい味で、湯豆腐や奴にいい。現在でも、深く掘り下げた井戸水を使うという、こだわりの豆腐屋だ。
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